Fe-Cr-Ni合金を原子炉内で使用する場合は, 合金元素の核変換で生成する水素および原子炉冷却水中の溶存水素の影響を受けるという問題がある。この水素が, 放射線損傷を受けたFe-Cr-Ni合金中でどのような挙動を示すかよく知られていない。その水素挙動をトリチウムをトレーサとして調べると, 以下のことが確認できる。Fe-Cr-Ni合金を283Kのジオキサン溶液およびイオン交換水中に放置すると拡散性の水素は放出されるが, 放射線損傷組織に捕獲された水素は放出されず5mol ppmの水素が捕獲されていると推定できる。トリチウムの放射能測定値から組織に捕獲された水素は, 323Kで5000秒加熱すると0.1mol ppm・s
-1の率で離脱する。捕獲トリチウムは, ヘリウム雰囲気で1000Kまで0.2K・s
-1で等時加熱するとほぼ離脱する。放射線損傷組織に捕獲された水素が組織から離脱するために必要な活性化エネルギーは53kJ・mol
-1である。
抄録全体を表示