理化学研究所で合成された113番元素は正式にその発見が認められ,研究グループからの提案通り元素名nihonium(ニホニウム),元素記号NhとIUPACによって正式命名された。113番元素合成実験は,冷たい融合反応により理化学研究所線形加速器施設で気体充填型反跳分離装置を用いて行われた。110番元素271Ds,111番元素272Rg,そして112番元素277Cnを追試実験により確認したのち,209Biに70Znを照射して新元素113番元素の探索が行われた。実質照射時間576日の実験で,278113に起因する崩壊連鎖が3事象観測された。1番目と2番目の崩壊連鎖は278113から266Bhの4つのα崩壊からなり,262Dbの自発核分裂で終了した。3番目はα崩壊が6回連続して起こり,既知核種262Db, 258Lrを経由して254Mdに至っている。観測された3つの崩壊連鎖はお互い矛盾のないものであった。また,266Bhの崩壊特性を248Cm+23Na反応によって調査し,278113の崩壊連鎖の一員である266Bhと一致することが確認された。これらの結果より,278113の合成が明確に立証された。
原子番号113番の元素がニホニウムと命名され,同時に118番までの元素名が確定した。これら超重元素の合成反応は,強いクーロン斥力の下での融合・分裂反応であり,準核分裂など従来の核反応理論では重要視されていなかった新しい特徴を持っている。本稿では,揺動散逸理論の観点から合成反応について述べる。核分裂障壁への殻補正エネルギーの寄与や融合過程のランジュバン方程式による取り扱いについて解説する。
超重核領域における原子核の核構造,崩壊様式の理論について概説をし,いわゆる「超重核の安定の島」の理論的予測について筆者が行った研究結果を中心に紹介する。この領域にはα崩壊,β崩壊,自発核分裂といった様々な崩壊様式が混在し,その競合により各原子核の寿命(安定性)が定まる。筆者らの研究により,陽子の数が114, 中性子の数が184の閉殻性により生じる安定の島において,294Ds(原子番号110)がおよそ300年の半減期のα崩壊優勢核種という理論予測が得られている。
超重元素合成研究の最前線を解説する。特に最近誕生した原子番号113から118までの新元素について,合成のための原子核融合反応と実験手法を解説する。さらに原子番号119以降の新元素探索に向けた今後の展望を解説する。
超重元素の存在は超重核の殻構造に本質的に依存する。理論的には,陽子数114~126,中性子数172~184の領域に球形で安定な二重閉殻構造を持つ超重核の存在が予測されているが,その閉殻の位置や強さは理論によって大きく異なり,確立されているとは言い難い。一方,実験的には,人類は既に陽子数118, 中性子数177までの超重核の合成に成功しており,二重閉殻領域に足を踏み入れつつある。更に最近では,核分光学的手法により超重核の基底状態や励起準位の構造を直接的に明らかにする試みも行われている。本稿では,それら超重核の殻構造に関する実験的研究の現状を紹介する。
新しい元素ニホニウムを含む超重元素の質量を精密に測定するプロジェクト(SHE-Mass計画)が進んでいる。これには核融合反応生成物をイオントラップに効率よく捕集するガスセル技術と,短い時間で能率よく高精度・高確度で質量測定可能な多重反射型飛行時間測定式質量分光器(MRTOF-MS)が重要な貢献をする。計画の第一段階の実験で,既にZ>100元素の7種の同位体を含む80核種の精密測定に成功している。