トリチウム標識ポリ (ビニルアルコール) と各種脂肪族ジアミンとの間で, 水素同位体交換反応 (T-for-H交換反応) が, 50~90℃の温度範囲で観測された。その結果, 反応時間の増加とともに, ジアミンの放射能の増加が認められた。このようにして得られた観測データに
A″-McKayプロット法を適用することで, この反応の速度定数 (
k) を得た。このようにして得た
kを用いて, ジアミン中のメチレンの数とその反応性との関係を定量比較できた。更に, ジアミンのアミノ基のN原子上の相対電荷がそのジアミンの反応性に及ぼす影響を明らかにするため, MOPAC法を用いた。以上の結果と以前得られた結果とから, T-for-H交換反応における脂肪族ジアミンに関して, 次の五つの事柄がわかった。 (1) 各ジアミンの反応性は, そのジアミン中のメチレンの数が増加するにつれ, 減少する。 (2) ジアミン中のメチレンの数が1, 3, 5と増えた場合の反応性の低下率は, 2, 4, 6と増えた場合の低下率よりも大きい。 (3) 幾つかの化合物の反応性に及ぼす温度の影響は, (ジカルボン酸) < (ジアミン) < (ジオール) < (芳香族化合物) の順である。 (4) ジアミン中のメチレンの数が奇数の場合, ジアミンのN原子の相対電荷は, メチレンの数の増加とともに減少する。偶数の場合は, ジアミンのN原子の相対電荷は, メチレンの数の増加とともに増加する。 (5) 本研究の手法とMOPAC法とを用いることで, ある溶媒中のジアミンの立体配置を見積もれる可能性が高い。
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