電池材料の充放電速度を決める重要な物質定数である「イオンの自己拡散係数」を,ミュオンスピン緩和(μ
+SR)測定で調べた結果をまとめる。表面ミュオンのスピンの向きはその運動量と反平行に揃っているので,零磁場下でも試料の内部磁場を測定できる。この特徴を使って,核磁場と電子磁場の共存する系でも,イオン拡散による核磁場の変動を検出できる。一方,核磁場共鳴による拡散測定は,常磁性イオンの影響を大きく受けることが知られている。実際に,電池の正極材料であるMn, Fe, Co, Ni等とLiやNaの複合酸化物中で,Li
+やNa
+の自己拡散係数をμ
+SRで見積もった。さらに物質定数である自己拡散係数が明らかになると,電池に重要な,可動イオン濃度(=キャリア濃度),電極の反応面積,拡散経路を推定できることを示す。また,打込み深さを調整できるミュオンビームを用いた将来研究を展望する。
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