福島県北の福島市と伊達市で,サクラ(Prunus×yedoensis)粗皮の137Cs濃度を定量的方法で調査し,付着状況と除染効果について,GMサーベイメーターによる測定とオートラジオグラフィー法により調査した。2015年に福島市で採取したサクラ粗皮の1 mm断片の137Cs濃度は,最高254±0.4 kBq/kgであった。2011年に高圧洗浄したサクラ粗皮を2014年に採取すると,137Cs濃度は無処理の半分以下の22.2±0.2 kBq/kgであった。オートラジオグラフィーを取得すると,サクラに触れる作業に用いた手袋に,汚染の付着が確認された。サクラ粗皮を金属のこてと金属ブラシで削り取ったところ,1,010±15 cpmであった場所が95±2 cpmに低下し,オートラジオグラフィー法でもスポットが大幅に減少していた。
TRU廃棄物の地層処分生物圏評価において,気体の14Cの植物体への移行が考慮されていない。気体の混合に寄与する風を評価するため,2つのイネ科植物群落の3測定高で風速を測定した。両群落のバイオマスは同じだったが,群落-2に比べて群落-1の草丈は78%であり,群落密度は2倍だった。群落上に対する群落内の風速は密な群落(群落-1)で制限された。群落密度が群落内の気体の滞留および植物への14Cの移行に影響することが示唆された。
我が国で著しい進展のあったδ15N, δ13Cを用いた窒素・炭素安定同位体精密測定法(SI法)による食物網解析法の進捗についてまとめた。特に,食物連鎖に見出された,窒素・炭素同位体効果に関する二つの経験則に注目し,近年のアミノ酸レベルのδ15Nに関する成果を考慮に入れて,その成立の境界条件を考察した。経験則1:栄養段階(TL)が1段階上がるごとに3.4±1.1‰高くなる事が過去の研究で示されている。この経験則は動物の筋肉タンパクについて得られているが,±1.1‰の変動について本稿で考察した。経験則2:海洋と陸域の代表的な食物連鎖について,窒素・炭素同位体効果の比(Δδ15N/Δδ13C)が動物の種類に関わらず,ほぼ一定であることが示唆されている。一般的に,食物連鎖に沿ってδ15Nはδ13Cと統計的に有意な回帰直線の関係を示す。この関係の成り立ちの可能性について代謝系の共通性から考察した。
窒素安定同位体比は複雑な窒素循環の解析に長年使われてきたが,必要試料量が大きいことがその利用のネックであった。近年,同位体比測定をN2ガスではなくN2Oガスで行う測定法が開発され,特に環境中で微量にしか存在しない溶存態の微量窒素化合物についての窒素安定同位体比,さらに酸素安定同位体比を用いた研究が進んできている。本稿ではこの測定法を用いた最新の研究について紹介する。
炭素・窒素安定同位体をトレーサーとする食性分析法は,人や動物の食物利用傾向を,複数の資源の分配率で表す手法として改良されてきた。同位体による研究が優れているのは利用度の復元が可能なだけではなく,生物学的現象と食料消費統計などの社会科学的現象との間を結ぶ研究の枠組みとして活用できることにある。これを示すために人間の食物利用に関する相補的な三つの研究事例を紹介し,食物利用の特性を解明する新しい研究法ついて議論する。
1981年から2000年の筆者の13C/12C, 15N/14N同位体分別の研究では植物組織や代謝物など多数試料の精密分析を行った.成果は:(1)植物組織や篩管液のδ13C 値とそれらのN獲得や乾燥などによる変動,(2)植物による窒素の獲得,代謝,体内移行での15N/14N 同位体分別,(3)δ13Cとδ15Nトレーサー法の生態学的適用;日本のクロボク土壌生成やタイとフィリピンの森林からサトウキビ土壌への移行における植物残渣由来Cの集積と代謝の解析ならびに植物における各種窒素源からの吸収量の推定である.これらの研究がその後どのように展開されたかをレビューした.