137Csに由来する662 keVのγ線はコンプトン散乱により100 m程度でエネルギーを失い方向を変える。下方に進行するγ線は地面により吸収と後方散乱(クラウドシャイン)され,遠方においては空気分子との散乱により空からγ線が降ってくるように見える(スカイシャイン)。我々は福島第一原子力発電所の敷地内においてγ線スカイシャインの一部のイメージ化に成功した。詳細な研究により,遠方からでも,スカイシャインを利用して2号機原子炉建屋に由来する放射線量の測定が可能であることを示すことができた。
成体動物の神経系は,一般的に放射線抵抗性であると考えられている。しかし,比較的低線量の放射線に照射された後に,さまざまな生理学的反応が起こることも知られている。ここでの 低線量域とは0.25 Gy以下の臨床症状が現れないレベルを指す。本稿では,生理学的プロセスに対する低線量照射の影響について解説した。また,100 mGy未満の安全性に関する最近の報告例も含めた。最後に生理学的分析を使用した低線量照射実験のこれからの課題について提案した。
標的アイソトープ治療(TRT)は細胞殺傷性の粒子放射線を放出するラジオアイソトープ(RI)を用いた治療で,癌治療の選択肢の一つとして確立している。ヨウ素131が甲状腺疾患の治療に用いられて以来,TRTは長い歴史を持つ治療法である。ヨウ素131やイットリウム90のようなβ線放出核種が主にTRTで使われてきた。放射化学や加速器工学の最近の進歩により,標的α線治療(TAT)が癌治療の選択肢として注目を集めている。α線はβ線と比較して高い細胞殺傷能を有する。また,α線は短い飛程である。この性質により,標的細胞にα線が送達された場合,周囲組織を正常に保ちながら標的細胞だけを殺傷することが出来る。TATの開発研究は盛んになりつつある。
Targeted radionuclide therapy(TRT)は一部のがんに対し有効な治療の選択肢の一つとして確立している。2000年代まではβ線による治療のみが臨床で確立した治療であったが,2010年代に入り223Raによるα線治療が臨床に登場し,α線の応用を含めた最先端のTRTやtargeted alpha therapy(TAT)の臨床応用に期待が高まっている。オージェ電子による治療は研究段階であり臨床治療は未だ確立していない。最近の臨床TRTでのトピックスや現状をレビューする。