東京電力福島第一原子力発電所の事故により放射性Csを含む廃棄物の一部は管理型最終処分場へ埋立処分されている。本研究では,処分場浸出水とともに放射性Csが溶出することを防ぐために,放射性Csを保持する鉱物を土壌層に混合することで,Cs保持能の向上を試みた。黒ボク土,褐色森林土は鉱物混合比が大きくなるほどCs固定量が大きくなるが,灰色低地土に関しては変化が見られなかった。また,土壌に混合した鉱物に有機物が収着することで,Csの収着阻害が生じるが,鉱物の種類や土壌の種類で阻害の程度が異なることを明らかにした。
福島県およびその周辺地域の原木シイタケ栽培は東京電力福島第一原子力発電所事故によって衰退している。林野庁は安全な原木シイタケ(<100 Bq/kg)を栽培するために,ホダ木の放射能濃度の最大値を50 Bq/kgに設定した。安全なホダ木を選定するために,屋外の汚染地域で測定可能な可搬型の放射能検査装置の開発が必要とされている。本研究では,遮蔽体を用いない安価な可搬型放射能検査装置を開発した。可搬型検査装置を用いたスクリーニング検査によって安全なホダ木の選定を実現した。
活性炭を用いたラドン収集器(PicoRad)は,ラドンのスクリーニングに用いられてきた。しかし,米国環境保護庁は,PicoRadを含む市販のラドン収集器について適切な測定結果が得られないことを指摘した。ラドン濃度を制御した標準ラドンチャンバで,2つのロット(有効期限が異なる) PicoRadを曝露し,その標準ラドンチャンバの基準器と比較して,計数率からラドン濃度への変換式を決定した。さらに,有効性評価を行うために,PicoRadを,ラドン濃度が制御されていないラドン場で曝露し,この変換式を用いてラドン濃度を求めたところ,ラドン濃度基準値とよく一致した。この研究では,有効期限の異なるロットごとにPicoRadの変換式の係数が必要であることが明らかになった。
東京電力福島第一原子力発電所の事故により137Csや90Srなどの放射性核種が放出され,深刻な環境問題となっている。本研究では,水中に存在するCs+を吸着・回収するため,ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(PAMPS)ハイドロゲルを用いた技術を開発した。PAMPSハイドロゲルの架橋度の最適化により,高いCs+吸着能と低い吸水性を併せ持つゲルが誕生した。PAMPSハイドロゲル中のスルホ基(−SO3−)はCs+に結合し,汚染水中のCs+が効率よく除去される。本研究で開発したPAMPSハイドロゲルは優れたCs+除去材料であることが明らかになった。
培養細胞と体内組織の親和性向上,細胞培養時の立体的な方向制御のため,温度応答性細胞培養膜表面への微細構造導入を試みた。電子線グラフト重合法とµmオーダーの格子状Si-maskを用い,Ethylene-tetrafluoroethylene copolymer (ETFE)にPoly(N-isopropylacrylamide)(PNIPAAm)を部分付与した。共焦点レーザー顕微鏡により電子線拡散とグラフト鎖伸長による丸みのある3 µmの凹凸を観察し,顕微FT-IR測定により凹凸とPNIPAAm付加分布の対応を確認した。PNIPAAmの下限臨界溶解温度(LCST)前後の接触角評価から濡れ性が変化し,細胞接着剥離の制御性が示唆された。
福島県内4カ所のほ場で栽培されている全ての樹体のカキ幼果の137Cs濃度を測定した。その結果,同一ほ場内においても幼果の137Cs濃度は異なっており,幼果の137Cs濃度が高い樹体が稀に存在することが明らかとなった。また,歩行型放射能測定システム‘KURAMA-II’を用いて地表面の放射能汚染密度,樹体の表面線量,樹体の幹周長をそれぞれ測定し,幼果の137Cs濃度と比較した結果,測定した各項目と幼果の137Cs濃度との関連性は認められず,放射能汚染リスクの高い樹体をこれらの手法で推定することは困難であった。