二次元高分解能二次イオン質量分析計(NanoSIMS NS50)を用いた約5μmの空間分解能での鉛とストロンチウムの同位体測定法を開発した。これらの元素には
206Pb,
207Pb,
87Sr等の放射性起源の核種が存在するので,天然における同位体比の変動が大きい。そのため空間分解能を上げても,測定誤差の範囲を超えた有意な同位体比の変動が見られた。モナザイトのウラン-鉛年代測定では,約4nAの酸素一次イオンビームを照射し,二次イオンを引き出してMattauch-Herzog型のイオン光学を持つシステムで質量分析した。イオン・カウンティングの多重検出器で
140Ce
+,
204Pb
+,
206Pb
+,
238U
16O
+,
238U
16O
2+を同時に検出できるように配置した。試料の
206Pb/
238U比は年代既知の中央マダガスカル産の標準試料の
206Pb/
238U比と比較することで求めた。一方
207Pb/
206Pb比は一つの検出器により磁場スキャンで分析した。台湾で採取した砂岩から分離した44個のモナザイトの
238U-
206Pb年代と
207Pb-
206Pb年代を測定し,電子線マイクロプローブ法により求められたU-Th-Pb化学年代と比較した。その結果,十分な一致が得られた。次にNanoSIMSにより天然の炭酸カルシウム中のストロンチウム同位体比(
87Sr/
86Sr)を分析した。多重検出器は
43Ca
+,
80Ca
2+,
86Sr
+,
87Sr
+を同時に検出するように配置した。次に第4番検出器が
85Rb
+,
86Sr
+,
87Sr
+を順番に,一方第4b検出器が同時に
86Sr
+,
87Sr
+,
88Sr
+を検出するように磁場スキャンを行った。Caダイマー,
87Rb,
88Sr/
86Sr比より見積もったマスバイアスなどの一連の補正を行った。標準試料JCP-1の繰り返し測定の結果,
87Sr/
86Srは0.3‰の精度と確度で分析できた。この手法を淀川で採取されたアユの耳石に応用した。耳石の中心部のコアーは高い同位体比,外辺のリムは低い同位体比となり,湖で生まれ,川を下り海で育ち,川を遡上中に捕獲されたアユの生態に沿った同位体比の変動が得られた。
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