水文学において,トレーサ技術は気団動態や汚染物質の輸送に関して最も効果的な方法の一つである。このトレーサ技術を用いて気団動態を観測するため,新潟市において,降水中のトリチウムの現地調査を行った。この試料水(降水)を蒸留・電解濃縮後,液体シンチレーションカウンタでトリチウム放射能を測定した。更に,その場所に到達した気団動態のパターンと結びつけるため,降水中の陽イオン(Na
+,K
+,Ca
2+,Mg
2+)濃度も測定した。以上から,次のことが明らかになった。
(1)降水中のトリチウム放射能は,採水場所や季節に強く依存する。
(2)台風による降水中の化学組成は,海洋性気団の特徴が強く見られる。
(3)月間降水中のイオンは季節的変動が見られ,カルシウムイオン濃度とトリチウム放射能の季節的変動とはよく類似している。
(4)後方流跡線解析法は,短期降水中のT放射能や各種イオンの動態を解析するのに有用である。
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