貝類の放射線照射履歴を検知するために,マルチチャンネルフーリエ変換型微弱発光分光分析計を用いて,ムール貝の熱発光スペクトルを測定した。放射線量を変えた試料の発光を測定すると,総発光量は放射線量とともに増加した。この検知法は身を取り除いて水洗した貝を粉砕するだけの簡便な前処理であり,0.1 kGyで照射された試料の発光スペクトル(ピーク位置641 nm)も観測できることから,新たな放射線照射履歴の検知法の一つとして期待される。
2015年9月14日に,史上初めて,アメリカの重力波望遠鏡LIGOが連星ブラックホールの合体からの重力波を検出しました。これは1915年にアインシュタインの一般相対性理論で予測された重力波を直接的に検証した偉業であるとともに,ブラックホール,及び連星ブラックホールがこの宇宙に存在することの直接的証明にもなっています。さらに2015年12月26日にも連星ブラックホールの合体からの重力波の信号が発見され,このような複数の検出により,非常に強い重力場における一般相対性理論の正しさが強く示唆され,重力波による全く新しい天文学が幕を切って落とされました。しかし,この歴史的な重力波の検出に至る道のりは極めて厳しく,キロメートルの基線長を持つレーザー干渉計重力波望遠鏡のその基線長の10−22の相対変化をとらえる性能を獲得するために,実に40年を超える努力がなされ,そして,重力波初検出後の今もなお,さらなる性能向上のための極限技術の開発が継続されています。本総説では,一般相対性理論における重力と重力波,重力波の波源,重力波望遠鏡の開発の歴史と様々な雑音対策,今回の重力波検出によって判明した内容,そして,将来の重力波望遠鏡計画について紹介します。
非常に軽く,また,反応性も弱いため,その性質に謎が多かったニュートリノだが,1998年の大気ニュートリノ振動発見以来,質量の有無をはじめ,その性質が徐々に明らかになってきた。本稿では,これまでわかったニュートリノの性質について,ならびに,スーパーカミオカンデを中心とした近年の実験がどのようにその解明を行ってきたかについて概説する。また,いまだ残された謎についても簡単に触れる。
粉末試料や非晶質などといった等方的試料のダイナミクスを研究対象とする場合,チョッパー分光器による中性子非弾性散乱測定は,定常炉の三軸分光器と比較して圧倒的な優位性を示す。特異な物性を発現する新規物質を発見した場合,研究の初期段階にあっては,単結晶を育成することができず,粉末試料しか得られないことも多いが,J-PARCの強力なパルス中性子ビームを用いることで,早々とダイナミクスに関する研究を展開することが可能である。すでにJ-PARCで稼働中の3台のチョッパー分光器は,今もなお装置高度化や新規解析手法の開発を継続しており,今後,革新的な研究成果を創出しうるポテンシャルを十分備えている。
AMATERASは,J-PARCの物質・生命科学実験施設に設置されたチョッパー型分光器である。最新の技術を投じた本装置は,J-PARCの大強度中性子源を最大限に活かして高分解能,高強度,目的に合わせて条件を最適化できる高い自由度で準弾性,非弾性中性子散乱実験を行うことができ,固体中の磁性や格子の集団励起,生体物質や機能性材料内における原子,分子の揺動,拡散など幅広いダイナミクス研究に用いられている。