福島第一原子力発電所事故に伴って降下した放射性物質により,農畜産物の放射能汚染が広がった。農産物の放射性セシウムによる汚染は,事故時には水田に移植されていなかったイネ(コメ)においても一部の水田で確認されたことから,その汚染メカニズムの解明が強く求められている。本研究では,2011年に500Bq・kg
-1付近の玄米が収穫された水田において,収穫期のイネと,そのイネが生育した水田土壌における放射性物質の分布を調べた。その結果,穂の直下の桿で他と比較して高い放射能が検出された。葉については,新しいものほどイメージング・プレートで検出されるシグナルが強く,放射性セシウム濃度も高いことが示された。比較対象として,土壌の放射性セシウム濃度はほぼ同レベルであるにもかかわらず玄米の濃度が検出限界(10Bq・kg
-1)未満であった地域で収穫されたイネの葉を解析したところ,古い葉ほど高い放射性セシウム濃度であった。これらの結果は,高濃度放射性セシウムが検出された当該イネは,出穂期付近である初夏から盛夏にかけて放射性セシウムを吸収した,若しくは体内の転流により放射性セシウムが新しい組織へと輸送された,いずれか又は両者の機構が関与した可能性を示すものである。
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