ヘモグロビンのSH基に結合した
203Hg-有機水銀の, 種々のキレート剤による除去反応を平衡透析法によって検討した。有機水銀化合物として, クロルメロドリン, メチル水銀, エチル水銀, フェニル水銀化合物を用いた。EDTA, グリシン, ポリメチレンジアミンなどのNH
2含有配位子とくらべて, ペニシラミン, グルタチオンなどのSH含有配位子はきわめて高く, かつ特異的な有機水銀除去効果を示した。有機水銀除去率と1: 1有機水銀―配位子錯体の安定度定数との間の比例的な関係がSH配位子群とNH
2配位子群のおのおのにおいて認められ, さらに有機水銀錯体の安定度定数が同じ場合, SH配位子の除去効果はNH
2配位子のそれよりも極端に大きかった。また, SH配位子群とNH
2配位子群のおのおのにおける, 平均除去率と各金属の有機部分の分極置換基定数との間にも直線的関係が見られた。SN配位子の場合の平均除去率は, エチル水銀>メチル水銀>フェニル水銀の順に増加したが, NH
2配位子の場合は有機水銀によって違いはなかった。これらの結果に基づいてヘモグロビン-SHと配位子原子 (SまたはN) との間で配位子が有機水銀に対して直接交換される機構が推定された。
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