東京電力福島第一原子力発電所の事故2年後の冬季に,放射性降下物を受けたクリ樹に対して,放射性セシウム(Cs)の除去を目的とした強度の異なるせん定処理を実施した。新生器官(果実,中位葉,当年枝)の放射性Cs濃度は,せん定処理1年目と2年目では,せん定による低減効果は認められなかった。せん定処理2年後の冬季における樹の放射性Cs蓄積量は,慣行せん定樹は無せん定樹の87%,強せん定樹は64%まで減少し,樹体から放射性Cs蓄積量を除去する効果が認められた。さらに,せん定処理2年後の冬季における樹体内の放射性Csと放射性Kの分布を比較した結果,新生器官の放射性Csは土壌由来ではなく,放射性降下物を受けた枝や主幹から移行したと考えられた。
静岡県浜松市にある中田島砂丘および砂浜上279地点で線量率を測定した。線量率は汀線から砂丘にかけて漸増し,砂丘全域でほぼ一定の値を示した。スペクトル測定の結果,カリウム濃度は砂浜と砂丘でほぼ同じレベルであったがトリウム濃度は砂丘の方がかなり高い値であった。これを説明するためのモデルの原型を提案した。
近年,河川や湖沼,海洋の放射能による環境汚染が問題になっており,物理的・化学的対応がなされている。また,持続的な環境修復という視点から,低濃度でしか存在しない場合でも生物濃縮機能の利点からバイオレメディエーションが注目されている。本研究では,身近な現象として貯水池(金沢市俵町大池)に大量発生し用水溝を詰まらせているアオコ(Phytoplankton biomass),オオマリコケムシ(Pectinatella magnifica),珪藻などについて生物的環境浄化の視点から研究を行った。これらの微生物についてICP-MSとSEM-EDSを用いて観察したところ,生息するこれらの微生物にストロンチウムを収着する機能があることが明らかになった。さらに,アオコが発生した池の水に焼成したゼオライトを投入したところ,急速に水が澄む現象を認めた。身近な汚染環境の浄化に土着の微生物が密接に関与している事実と安価・簡便な環境修復技術を資料として提供する。
立方ペロブスカイトMn酸化物AMnO3はMnサイトへのホールの導入により巨大磁気抵抗効果が現れることで有名な物質であるが,スピン・軌道・電荷の自由度が絡み合うことで多彩な物性を示す代表的な系としてもよく知られている。この物質における各自由度の役割を明らかにする研究の中で中性子散乱は重要な役割を果たしてきた。AMnO3の基本物性やこの物質が示す代表的な磁気・軌道秩序について概説し,本物質に特徴的なスピン間相互作用である二重交換相互作用や軌道秩序によって生じるスピン相関の様子を,非弾性中性子散乱によるスピン波の解析から調べた研究例を紹介する。