再生医療の活性化に伴い,幹細胞などの再生医療製品の国際搬送の必要性が高まっている。現状の国際搬送は航空機搬送が主体であるが,空港におけるセキュリティ検査のX線や宇宙放射線による被ばくの影響が懸念される。日本発着国際便による1回の輸送で宇宙放射線が細胞核にヒットする確率は高くはないが,細胞死や癌化といった問題だけでなく,幹細胞に求められる分化能に対する影響を否定することができない。そこで,航空機輸送に伴う低線量被ばくが与える影響の解明と併せて,宇宙放射線を効果的に遮蔽できる搬送容器や搬送システムの開発が必要である。
1990年から2019年までの29年間,主にPET/PIXE研究に使用してきた仁科記念サイクロトロンセンターを廃止した。サイクロトロン本体と周辺機器はすべて放射性廃棄物とした。建屋コンクリートについては,Ge検出器によるコア採取したコンクリート試料の放射能分析,遮蔽体付きCsIシンチレーションサーベイメータによる表面の線量率測定,PHITS計算による放射化計算を実施した。詳細なモデリングによるPHITS計算はGe検出器の測定結果をよく再現できた。コンクリートの放射化部位は表面から21 cmから41 cmと判断し,はつりとったうえで,サーベイメータによる測定により完全に除染できたことを確認した。すべての廃止措置作業に22か月を要した。コンクリートの放射化部位の評価について合理的な手法を提案する。
本研究では,根成熟領域におけるナトリウムイオン(Na+)の排除機能を,細胞膜Na+/H+アンチポーターであるSALT OVERLY SENSITIVE 1(SOS1)が担っていることを計測するために,エア・ギャップ・ゲル・システムを開発した。根成熟領域特異的なSOS1のNa+排除機能を調べるため,エア・ギャップ・ゲル・システム中央に配置される根成熟領域ゲル以外のゲルをpH 9.2とすることで,根端のSOS1活性を阻害する実験系を構築した。これにより,野生型(WT)とSOS1欠損株の根成熟領域のNa+排除を比較することが可能となった。根端に22Na+溶液を滴下し,4時間後に根成熟領域ゲルとそのゲル上の成熟根の放射能を測定した結果,WTはSOS1欠損株よりも多くのNa+を根成熟領域から排除していたとともに,SOS1欠損株はWTよりも多くのNa+を成熟根に蓄積することが示された。これらの結果から,根端から吸収されたNa+の一部は,道管を通じて葉に運ばれる途中で根成熟領域からSOS1によって排除されると結論付けた。本研究は,成熟根でのSOS1の機能を示す初めての研究であり,塩ストレスに耐性のある作物を開発するための重要な足がかりとなることが期待できる。
すでに発表した論文「遮蔽計算実務のための85核種の実効線量透過率(光子)—『放射線施設の遮蔽計算実務(放射線)データ集 2015』を補う追加核種のデータ—」に10核種26Al, 67Cu, 80mBr, 80Br, 145Eu, 149Gd, 149Tb, 188W, 223Fr, 227Acの光子による実効線量透過率の計算値を追加した。
理化学研究所では,産業利用の現場における評価解析装置システムとして,さらに社会インフラを検査する屋外利用可能な可搬型計測システムとして広く利用されることを目標とし,小型中性子源システムRANS, RANS-II, RANS-III, RANS-µを開発している。多様なニーズに的確に対応するため,中性子源をさらに小型化,軽量化しながらも,中性子線の高い透過能と分解能を活かした高度な計測が実現しつつある。
拡散型霧箱には謎が多い。α線は10ナノ秒以下で通過し終えるが,その飛跡が数十ミリ秒の時間で伸びて行くのが目に見える。また,α線の通過方向とは反対の方向に飛跡が伸びるという信じ難い現象を見出した。後者の現象を検討した結果,α線の通過経路に沿って温度差があり,通過の始めの近傍のエタノールの過飽和分子の濃度が通過の終端近傍の濃度よりも数分の1程度に低い場合に起きることを実験的,理論的に確かめた。