核融合炉研究開発は,要素技術開発の時代を過ぎて,システム統合の時代に入ってきた。日米欧露中韓印の7極の協力の下,核融合プラズマ燃焼と核融合炉工学技術の実証を主目的とする国際熱核融合実験炉ITERの建設が進んでいる。また,このITERに貢献あるいは補完する研究が,日欧の「幅広いアプローチ活動」の下に進み,定常高圧力プラズマ制御の実現を主目的とするJT-60SAや核融合中性子工学研究のためのIFMIF原型加速器の建設が開始された。そして,原型炉開発を担う全日本体制が構築され研究開発が開始された。
核融合原型炉の技術基盤構築のための産学官連携の体制が整備され,核融合エネルギーを用いて発電を実証する核融合原型炉の開発計画を定めたロードマップやアクションプランに関する議論が活発になっている。核融合発電炉の実用化を見据え,エネルギー政策の要諦を踏まえた核融合原型炉の目標と課題が設定された。また,核融合原型炉の技術基盤を構築するための司令塔の役割を担う原型炉設計合同特別チームがオールジャパン体制で設立され,わが国の核融合原型炉の姿が描き出されつつある。
ITER計画は,フランスのサンポール・レ・デュランスで建屋の建設が急ピッチで進められており,並行して日欧米露中韓印の参加7極において,ITERの核となる機器の設計・製作が進展している。日本が物納調達の責任を有するトロイダル磁場(TF)コイル用及び中心ソレノイド用の超伝導導体,TFコイル・同構造物,中性粒子入射加熱装置(NB)用高電圧電源,電子サイクロトロン波(EC)加熱装置のジャイロトロン等については,国内における製作が順調に進展している。2016年11月,参加極の政府高官から成るITER理事会は,ITERの運転開始となるファーストプラズマを2025年12月,その後段階的に運転範囲を拡張し,本格的に核融合反応を起こす運転を2035年に開始するという計画を決定した。本稿ではITER計画の歩みを振り返るとともに,日本がITERに物納するTFコイル,NB用電源,EC装置ジャイロトロンの製作の進捗を報告し,さらにファーストプラズマ,核融合運転に向けた計画を紹介する。
日本と欧州が共同して茨城県那珂市で建設中の実験装置JT-60SAは,大型トカマクJT-60を改造して超伝導装置とするもので,ITERではできない原型炉に必要な高いプラズマ圧力領域での定常運転の開発や,ITERを支援する様々なアイデアを試す装置である。そして,ITERや原型炉で活躍する人材を育てる。2020年9月の実験開始に向けて機器製作や組み立てが高精度かつ順調に進んでいる。日欧15カ国45研究機関の共同研究者(378人)によって,このJT-60SAを用いた研究計画を取り纏めた。
大強度中性子源の実現を目的としたIFMIF/EVEDA原型加速器の開発が進行中である。初段の入射器試験において,目標の100 keV–140 mAの重陽子加速が実証されている。このビームは続く高周波四重極線形加速器により5 MeVまで加速され,さらに,超伝導加速器で9MeVまで加速される計画である。重陽子ビームのターゲット系の開発として,液体リチウムテストループが開発され,15 m/sの液体リチウム流動,1,300時間の安定な運転を実証した。
幅広いアプローチ協定に基づき,ITER計画の支援・補完と原型炉の早期実現に貢献するため,国際核融合エネルギー研究センター(IFERC)事業は,原型炉設計・研究開発調整センター活動,計算機シミュレーションセンター活動,及びITER遠隔実験センター活動からなる三副事業を実施している。ここでは,三副事業の活動内容を概説する。
核融合炉の炉心プラズマに求められる性能は,高い閉じ込め性能で所要の核融合出力を得,第一壁への熱流を許容範囲に保ちつつ,高い出力密度(高いプラズマ圧力)でコンパクトな炉心とし,かつ小さな循環電力で定常的にプラズマを維持することである。この炉心プラズマの研究開発は,日本が主導してきた科学であり,JT-60装置での臨界プラズマ条件の達成をはじめ,数々の世界最高性能を樹立してきた。原型炉へ向けた今後の研究の要点は,i)ITERでの燃焼プラズマ(エネルギー増倍率Q=10)の長時間維持,ii)JT-60SAでの定常高圧力プラズマ(高規格化プラズマ圧力・高自発電流割合)の長時間維持,そしてiii)モデリング・シミュレーション研究を合わせた原型炉を十分予測できるプラズマの理解である。
核融合炉では,プラズマを閉じ込めるために必要な磁場を発生させるため,超伝導コイルシステムが必要不可欠である。量子科学技術研究開発機構は,ITER超伝導コイルシステムの調達において,25%のトロイダル磁場コイル用超伝導導体を2014年に完了し,現在,全量の中心ソレノイド用超伝導導体,9体のトロイダル磁場コイル及び19体のトロイダル磁場コイル容器の製作を進めている。
中性粒子ビーム発生源となる負イオン源では,加速器の絶縁破壊,及びビームによる電極への熱負荷が高いことが耐電圧・長パルスの観点で問題であったが,加速器で用いる大面積電極の耐電圧特性を明らかにして絶縁破壊を抑制し,高精度の負イオンビーム軌道制御法を考案して電極熱負荷を低減した結果,ITERで必要な1MeVビームの60秒間連続生成を実証した。イタリア(Consorzio RFX)に建設中のITER NB実機試験施設に向けた1MV直流高電圧電源機器開発では,機器開発を通じて機器製作を完了させ,2017年時は全体の9割の機器を据付け,2018年に電源統合試験を実施する計画で順調に進展している。
磁場閉じ込めプラズマの電子やイオンを高周波の作用により加速し,プラズマを加熱したり電流を駆動したりする高周波加熱システムは核融合研究に欠かせない。その中でも先進的方式である電子サイクロトロン加熱のシステム開発が順調に進捗している。特に高周波を出力する真空管「ジャイロトロン」の開発では日本が世界をリードし,ITER及びJT-60SAに必要とされる性能を既に満たし,両装置への機器調達が開始されている。
大型トカマク装置の磁場コイル電源には,数十kA/数kVの直流電源が必要である。高電圧はプラズマ着火時のみ必要で,その後は比較的低電圧で十分のため,合理的設計が求められる。また超伝導コイルを用いる最近の装置では,コイルの損傷を回避するため,数GJから数十GJの磁気エネルギーを急速に開放する保護回路が必要である。本稿では,現在建設中のJT-60SAを例に,直流電源とコイル保護回路の特徴を述べる。
トリチウム増殖ブランケットは,中性子を遮蔽し,熱を取り出し,燃料であるトリチウムを製造する機能を備えた機器で,核融合炉で発電を目指す上で鍵となる技術である。ここではブランケットの概要,フランスに建設中の国際熱核融合実験炉(ITER)の利用計画として,日本が進めているテストブランケット試験計画について,現在の状況を解説する。
高効率で核融合エネルギーを取り出し,かつ燃料(トリチウム)を生産する機能を有することが求められるブランケットシステムがその運転期間中に安定して機能を果たすためには,高エネルギー中性子の照射を受けながらも要求特性を満たす構造材料,高温照射下でも化学・構造安定性を保持できるトリチウム増殖材及び中性子増倍材といった機能材料の開発が必要となる。本稿ではこれら核融合炉材料の開発状況について報告する。
核融合炉で最も高い熱負荷を受けるプラズマ対向機器における研究開発の現状について,近年のITERダイバータの研究開発例を踏まえて工学的な技術開発の推移を説明する。特に,接合技術の高熱負荷に対する耐久性能の実証と組立設置の精度確認を中心に研究開発上大きなマイルストーンを達成したことを報告する。
核融合研究は炉工学技術の実証段階に入り,ITERにおいて重水素(D)/トリチウム(T)燃焼運転を実施するためのトリチウムシステムの設計活動が本格化している。トリチウムを確実に閉じ込め,トリチウム除去系(DS)にて処理を行うことが核融合炉の安全性確保の鍵となる。ITERの日本国内機関であるJADAはITER機構とともにDS共同調達チームを設立し,DSの最終設計活動,性能確証試験を実施している。
核融合炉では,高レベルγ線環境である真空容器内での保守作業を実施するため,遠隔保守システムが必要不可欠である。量子科学技術研究開発機構は,ITERブランケット遠隔保守装置の調達において,これまでの核融合装置遠隔保守で未解決であった配管溶接などの技術の確立を目指して研究開発を進めている。
プラズマ計測装置は,測定のためにプラズマ対向壁,遮蔽体,安全境界,防火区画及び換気区画に穴を空けることになるため,設計する上で原子力安全の確保が求められている。原子力施設におけるプラズマ計測装置の設計はITER計画が初めてであり,本稿では同計画において日本が調達するポロイダル偏光計の設計活動における知見を基に,原型炉などの将来の核融合炉の計測装置にも関連する設計要点を議論する。
核融合炉におけるブランケット構造材料の損傷に関する知見をより正確に評価し,供用期間中の健全性を確証するためには,ヘリウム生成率とはじき出し損傷率の比(He/dpa)を10近くにし,はじき出しによって作られた欠陥とヘリウム生成との相互作用による材料変化を様々な材料試験によって検証することが必要であり,このために核融合炉を模擬した中性子スペクトルを持つ大強度中性子源が必須である。本章では,これまでのIFMIF/EVEDAでの開発技術をもとに,量研で計画している核融合中性子源施設建設に向けた活動計画を紹介するとともに,その幅広い利用計画に向けた提案を紹介する。