近年,アスタチン-211(211At)を用いたα線内用療法に関する核医学的研究が世界各地で盛んに行われている。本稿では,211Atの製造法や分離精製法など,核医学研究を行うために必要な核・放射化学的な研究手法について説明する。また,最近活発になってきたアスタチンの化学研究について簡単に紹介する。
アクチノイド元素であるトリウム(Th)とウラン(U)には,229mThと235mUという非常に励起エネルギーの低い核異性体(準安定な励起状態)が存在する。これらの原子核は脱励起時に外殻の軌道殻電子と相互作用し,その化学状態の変化に応じて核の壊変の様子(半減期)が大きく変化するという興味深い現象が知られている。本稿では,これらの核種を対象としたこれまでの研究成果と現在取り組まれている研究の状況について紹介する。
ウランやネプツニウムをはじめとした,溶液内で種々の酸化状態をとるアクチノイドイオンの電極反応と酸化還元の特徴を概説する。フロー電解法は迅速かつ高効率な電解が可能で,反応速度の遅い酸化還元の観測にも適用できる。同法を用いて取得したアクチノイドの酸化還元挙動や,これに立脚した酸化状態の迅速調整法を紹介するとともに,電解に伴って発現する溶液内反応や電極上での触媒的還元などについても解説する。
原子番号が100を超える重い元素のひとつ,103番元素ローレンシウム(Lr)の第一イオン化エネルギー(IP1)の決定に初めて成功した。一度に原子一個の取扱いが求められるLrのIP1測定には,マクロ量を対象とした従来法とは異なる手法が要求される。本稿では,表面電離過程を応用した新しいIP1決定法について解説するとともに,Natureの表紙を飾ったLrのIP1測定結果と,その後の議論について紹介する。
超アクチノイド元素,ラザホージウム(Rf),ドブニウム(Db)及びシーボーギウム(Sg)の溶液化学に関する最近の成果を紹介する。核反応で合成されるこれらの元素(核種)は,生成率が小さく半減期も短いため,一度に扱うことができるのはわずか1原子(シングルアトム)である。シングルアトム化学の概念とそれに基づく分配法による実験の概要,超アクチノイド元素の特徴的な性質と相対論効果との関わりなども併せて解説する。最後に今後の展望を簡単に述べる。
著者らの研究グループでは,理研の気体充填型反跳核分離装置(GARIS)にガスジェット搬送装置を結合し,超重元素の化学的性質を単一原子レベルで解明するための新しい化学元素分析システムの開発を進めている。最近,106番元素シーボーギウムの長寿命同位体265Sgを製造し,超重元素初の有機金属化合物,Sgのカルボニル錯体の化学合成に成功した。本稿では,これらの研究成果とともにGARISが拓く超重元素化学研究の展望について解説する。