フォトアクティブイェロープロテイン(PYP)の水素結合ネットワークを明らかにするために,筆者らはPYPの高分解能中性子結晶構造解析を行った。PYPの水素結合ネットワークには通常の水素結合に加え,二つの短距離水素結合が存在することが知られている。筆者らは,中性子結晶構造解析に必要な巨大PYP結晶(2.89×0.85×0.79mm
3)を作製し,X線で0.125nm,中性子で0.15nm分解能の回折データを収集することに成功した。更に,X線,及び中性子回折データを併用した解析法を適用した結果,PYP中の942個の水素原子の内,819個の水素原子を観測することができた。得られた構造から,二つの短距離水素結合の内,発色団とY42の間の水素結合はイオン性の短距離水素結合であったのに対し,発色団とE46の間の水素結合は低障壁水素結合であることを示すことができた。脱プロトン化した発色団のカウンタイオンは,従来,プロトン化したR52と考えられていたが,今回得られた中性子構造では,R52は電気的中性状態であることがわかった。これらの観測から,蛋白質中の電荷の安定化機構に対して,新規のモデルを提唱するに至った。ここでは,PYPの光反応に対する低障壁水素結合の役割についても議論する。
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