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59 巻 , 4 号
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連載講座
中性子回折の基礎と応用(基礎5)
  • 栗原 和男, 岡崎 伸生, 黒木 良太
    2010 年 59 巻 4 号 p. 263-277
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/28
    ジャーナル オープンアクセス
    中性子を結晶構造解析に応用すれば,物質中の水素などの軽原子の識別,存在の有無や位置の決定が容易にできる。この手法は,低分子有機化合物から,分子量の大きな蛋白質などの立体構造解析にも広がっている。生命現象の中で蛋白質や水和水中の水素原子の果たす役割は大変重要である。この分野での中性子結晶構造解析では,弱い線源強度を補い効率の良い測定を可能にするための回折装置や試料調製・結晶化技術の開発が成されてきた。日本では,中性子イメージングプレートを検出器として用いた単結晶中性子回折装置BIX-3,BIX-4が建設され,これまでに水素原子が関わる分子構造研究,例えば,X線データからは予測困難な水素原子位置の決定,水素結合配置の詳細,水和水の持つ配向自由度の様式などの研究に貢献してきた。一方,X線回折との相補的な利用も進み,最近ではX線との同時構造精密化法を用いた創薬標的蛋白質に対する中性子構造解析から,その酵素反応機構の解明や水素が関わる特殊な立体構造の観察に成功してきている。こうして得られた水素・水和構造の情報は,世界初の生体水素水和水データベースに集約され,水素情報の統計的な様相が解析可能になっている。海外を含め,新たな回折装置,試料調製・結晶化技術や解析手法の開発への取り組みは現在もなお進められており,水素を含めた機能解明や研究機会の更なる拡大を目指している。
中性子回折の基礎と応用(応用10)
  • 細谷 孝明, 大原 高志
    2010 年 59 巻 4 号 p. 279-287
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/28
    ジャーナル オープンアクセス
    水素原子やプロトンが重要な役割を担う反応において,単結晶中性子構造解析はその反応機構を解明する強力な手法である。特に,水素原子やプロトンの移動はもっとも基本的で重要な現象であり,多くの有機反応,無機反応,酵素反応及び触媒反応等でしばしば観察される。本稿では,化学における単結晶中性子構造解析の応用例をいくつか紹介する。最初に金属ヒドリド錯体中の水素原子の位置を決定する研究例を挙げる。これは,水素原子が結合する金属原子の巨大な電子雲に埋もれてしまうため,X線回折では解析困難となる。次に,水素結合ネットワーク中,特に低障壁水素結合中における水素原子を決定する研究例を挙げる。中性子構造解析では水素原子の熱挙動まで含めて構造精密化が可能であるため,より詳細な議論が可能である。最後に,筆者らの研究例として,「重水素置換による標識化」と「結晶相反応」を利用した,光誘起による水素原子・プロトン移動の観察を取り上げる。ここで取り上げた多くの研究の成功によって,化学における中性子構造解析は絶えず発展してきたが,依然として単結晶中性子回折を行うにあたって多くの問題,すなわち中性子ビーム強度の弱さとそれに伴うmm単位の巨大な試料結晶の要求,を抱えている。しかし今,日本のJ-PARCで稼働中のiBIX単結晶中性子回折計を含む,次世代パルス中性子源での新しい強力な装置によってこれらの壁が取り払われつつあり,化学における単結晶中性子構造解析の飛躍的な発展が期待される。
中性子回折の基礎と応用(応用11)
  • 上久保 裕生, 山口 繁生, 片岡 幹雄
    2010 年 59 巻 4 号 p. 289-297
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/28
    ジャーナル オープンアクセス
    フォトアクティブイェロープロテイン(PYP)の水素結合ネットワークを明らかにするために,筆者らはPYPの高分解能中性子結晶構造解析を行った。PYPの水素結合ネットワークには通常の水素結合に加え,二つの短距離水素結合が存在することが知られている。筆者らは,中性子結晶構造解析に必要な巨大PYP結晶(2.89×0.85×0.79mm3)を作製し,X線で0.125nm,中性子で0.15nm分解能の回折データを収集することに成功した。更に,X線,及び中性子回折データを併用した解析法を適用した結果,PYP中の942個の水素原子の内,819個の水素原子を観測することができた。得られた構造から,二つの短距離水素結合の内,発色団とY42の間の水素結合はイオン性の短距離水素結合であったのに対し,発色団とE46の間の水素結合は低障壁水素結合であることを示すことができた。脱プロトン化した発色団のカウンタイオンは,従来,プロトン化したR52と考えられていたが,今回得られた中性子構造では,R52は電気的中性状態であることがわかった。これらの観測から,蛋白質中の電荷の安定化機構に対して,新規のモデルを提唱するに至った。ここでは,PYPの光反応に対する低障壁水素結合の役割についても議論する。
中性子回折の基礎と応用(応用12)
  • 玉田 太郎, 安達 基泰
    2010 年 59 巻 4 号 p. 299-308
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/28
    ジャーナル オープンアクセス
    X線回折が原子核を取り巻く電子からの現象であるのに対し,中性子回折は原子核そのものから生じる回折現象である。したがって,同じ原子を観測してもその位置や見え方に特徴的な差が生じる。水素原子の中性子散乱長は炭素や酸素原子などと同程度であるため,X線結晶構造解析では0.1nm以上の高分解能でなければ決定できない水素原子の位置を,中性子結晶構造解析では通常の分解能(0.2nm程度)で容易に決定できる。また,この二つの方法で観測される水素原子の位置には違いがあり,特殊な環境に存在する酵素の触媒基の電子状態と原子核の位置にどのような違いがあるのかは大変興味深い。このように中性子とX線の特徴的な違いをうまく利用した構造解析を行えば,蛋白質が関与するさまざまな生命反応をより深く理解することが可能になると思われる。最近,筆者らは2例の創薬標的蛋白質と医薬品候補分子(阻害剤)複合体の中性子構造解析に成功した。一つはHIV-1プロテアーゼ/KNI-272複合体,もう一つはブタ膵臓エラスターゼ/FR130180複合体であり,いずれの結果もX線では観察が難しい触媒残基の解離状態を明らかにできた。これらの知見は,創薬標的酵素の触媒機構の理解を深めると共に,より効果的な治療薬の開発に繋がるものと期待される。
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