我々はこれまで,低線量放射線はマウス諸臓器中で抗酸化機能を亢進し,酸化ストレス関連疾患を抑制することを報告してきた。しかしながら,それらの結果は対象疾患も低線量放射線による処置の条件も様々で,有効性が立証された治療法は確立されていない。そこで,本研究では,それらの結果から低線量放射線の健康効果を明らかにすることを目的とし,ラドン療法のような低線量放射線を活用した治療法の新規適応症を探索した。データの解析には自己組織化マップ(SOM)を用い,不安定な抗酸化機能の変化を自己組織化マップの曖昧な表現で視覚的に直感的に捉えることにより,出力された疾患抑制効果と抗酸化機能亢進の関連性を検討した。その結果,ラドン療法の適応症である疼痛への効果には明らかな線量依存性があることがわかり,肝疾患や脳疾患においても,線量依存性はないもののその効果を期待できると予測できた。本研究は,ラドン療法のような低線量放射線を活用した治療法の応用に貢献できると考える。
市販試薬中に存在する天然放射性核種を用いて,γ線スペクトロメトリー用のディスク型γ線源の作製を試みた。天然放射性核種である40Kと176Luを含む市販試薬をそれぞれ溶解後,ゼラチンと少量の食用着色料を添加し,液体をガラス繊維フィルターに滴下することで線源とした。滴下量から算出した放射能を用いて,γ線スペクトロメトリーにおけるディスク型γ線標準線源の検出効率曲線を作成した。検出効率曲線の妥当性は,ディスク型γ線標準線源と同型の認証標準試料の分析結果を認証値と比較することで評価した。認証標準試料中の放射性核種濃度の認証値と作成した検出効率曲線から得られた定量値はよく一致した。固相抽出とγ線測定を組み合わせて雨水中の放射性核種の定量分析に適用したところ,良好な定量値が得られた。ディスク型γ線標準線源は,市販の試薬から作製できるため,管理区域外でのγ線スペクトロメトリーに適用できる点が利点である。
漁市場及び農産物市場では,多量の魚介類及び農作物が出荷される。これらの出荷物が放射性Csで汚染されているかどうか,非破壊で多量に検査できる装置を開発した。本装置は,ベルトコンベヤーのベルトの下に,1直線に並べられた120個のγ線検出器を置き,ベルトの上に食品を載せベルトを移動させながら放射線を計測することにより,食品の放射性Csの比放射能及び汚染分布を求めている。20 cm位の魚の場合,1時間に2000匹以上検査することができる。本装置は,石巻市,女川町,北茨城市の魚市場で,丸森町ではタケノコ汚染検査場で,及び白石市ではみやぎ仙南農業協同組合白石農機センターで稼働しており,食の安全・安心に貢献している。