富士山南西麓における地下水の222Rn濃度を調査した。その結果,沿岸域における水試料の222Rn濃度は内陸よりも高く,その分布は研究地域内の断層分布と相関性は認められなかった。また,高い222Rn濃度を示す水試料の多くは,扇状地における砂礫層の影響を示唆する高いストロンチウム同位体比(87Sr/86Sr)を示していた。したがって,沿岸域の地下水において222Rn濃度が増加する主な要因は,扇状地堆積物中に濃集する226Raからの放射性崩壊であると推測される。
ウラン燃料を製造する加工メーカでは,測定によるU-235量や濃縮度の定量が重要になる。本研究では,U-235から放出された186 keVのγ線の測定から評価したU-235の含有量は,U-238の不均一な分布を定量化した遮蔽因子Xgeometryで補正できることを示す。Xgeometryは,Pa-234 mから放出される1001 keVのγ線と,1001 keVに由来する散乱γ線を用いて定量化した。Xgeometryは,もともとU-238の測定のために導入した。U-235はU-238と共存するので,この因子は,U-235の測定値に適用することも可能である。模擬充填物や線源をセットしたドラム缶を用いた試験で,U-235の含有量及び濃縮の定量誤差は遮蔽因子を考慮することで低減することを実証した。
福島第一原子力発電所事故では,炉心冷却のために数百トン/日の注水が続けられ,Csなどの放射性物質を高濃度(~106 Bq/cm3)で含む汚染水が短期間で大量に発生し,保管場所の確保も困難な状態となっている。放射能高汚染水は,主に放射性セシウムを含む海水系汚染水であり,極めて大量で高放射能の汚染水の対策は過去に例がないことである。事故の収束に向けた道筋のステップ1において,放射性セシウムを除染する水処理設備が設置され,冷却水として再利用する循環注水冷却システムが稼動している。本システムでは,Cs吸着剤としてゼオライト,CST(結晶性シリコチタネート),不溶性フェロシアン化物が使用されている。今後長期間にわたりシステムの運転を継続する必要があり,高機能性吸着剤の開発,除染の効率化,高度化が緊急の課題とされている。ここでは,CsとSrの選択的吸着剤の吸着特性及び安定固化法及び安全性評価に関わる課題について紹介する。
銅酸化物高温超伝導は,層状構造モット絶縁体に対してキャリアをドープすることで発現する。この系では,スピン量子数1/2のCuスピン間に,1500 Kにも及ぶ強い超交換相互作用が存在しているため,超伝導相のスピンダイナミクスは,中性子散乱にとって最も難しく挑戦的な研究対象のひとつとなっている。しかし,大強度中性子源の稼働と近年の測定技術の進展によって,広いエネルギー運動量空間で励起状態が観測できるようになってきた。その結果,超伝導となる物質では特異なエネルギー階層構造が存在することがわかりつつある。この階層的磁気構造の特徴を概観し,J-PARC/MLFで行った精密測定の結果を元に階層性の起源について議論する。
J-PARC・物質生命科学実験施設(MLF)に設置された中性子実験装置は世界的にも大変ユニークである。ここでは,短パルス中性子源であるMLFの中性子源の特徴と,その特徴を最も有効に引き出すための飛行時間法について説明するとともに,世界的にも初めて導入した「多重入射エネルギー測定法」さらに「パルス整形チョッパー法」に基づく非弾性散乱装置の原理に加え,幾つかの特徴的な観測方法の原理について説明する。