本研究は工業用1本針本縫差動上下送りミシンを用いて, 差動上下送りの条件を変えた場合の差動送り効果について明らかにするとともに, 布のどのような物性 (諸元) が差動上下送り効果を高めるかについても検討を行ったものである.得られた結果をまとめると次のようになる.
(1) 縫合布を一定として差動上下送りミシンにより縫製を行った場合には,
la,
lbをそれぞれ下送りおよび押え送りの移動長さとしたとき (
lb-
la)
lb/
laなるファクターに対して, 上布および下布の縫縮み率, 縫ずれ率のいずれも良好に整理することができた.
(2) 差動送り条件とともに下布の縫縮み率はいくらか減少する傾向を持つが, 上布の縫縮み率は急激に増加して差動送り効果が顕著にあらわれる.このときの下送め部と押え送り部における見かけのすべり量を算出すると, このすべり量のいずれもが上記の (
lb-
la)
lb/
laに対してほぼ整理できた.
(3) 布の物性と差動送り効果との関係をみるために縫製条件を固定して13種の布を縫製し, 縫ずれ率に着目して重回帰分析を行ったところ, 布の重量, 表面摩擦係数, 曲げこわさの3変数を取り入れたモデルが最も良いモデルと判定された.このうち布重量と摩擦係数は送り歯による布の把持しやすさと結びつくものと考えられるが, さらに摩擦係数は針板やベッドとの摩擦による下布の送り量の減少とも関係し, 差動上下送り効果を顕著にする.一方曲げこわさは, 布の座屈しにくさを表わしたものと考えられる.
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