ニット生地への水分付与は,縫製時の地糸切れ防止対策の一つとして知られている.本研究においては,この水分付与効果が,繊維素材とどのような関係にあるのかを検討したものである.
実験では,綿およびモダル(改良レーヨン)素材のニット生地を試料とし,水分率を変えて縫製実験を行い,地糸切れ発生率を求めた.
その結果,綿ニットでは乾燥状態で地糸切れ発生率が比較的高かったが,水分付与により地糸切れは減少し,従来から報告されている防止効果が確認できた.一方,モダルニットの場合には,乾燥状態では地糸切れの発生があまり見られなかったが,水分率の増加により地糸切れの発生率は高くなり,綿ニットとは逆の傾向となった.綿とモダルの50%混用ニットは,綿とモダルニットの間に位置し,綿と同様に水分付与による低減効果がみられた.
この理由を検討するために,綿とモダルのニット生地(編糸)の外観変化,編糸の解舒力,KES試験機によるせん断・曲げ剛性率,引張張試験機による編糸のエッジ強さなどを測定した.綿ニットとモダルニットの水分付与による傾向の相違は,水分によるモダル編糸の膨潤に起因する自由度の低下,およびエッジ強さの減少が複合的に作用したものと考えられる.
本研究の結果より,ニットの地糸切れの防止対策として,水分付与を考える場合には,素材によって吟味しなければならない.
布地同士の擦れにより,傷みの程度を判断するための指標を得るために,9種類の試料布について,摩耗程度の異なる7種類の布を用意し,引張り強度,圧縮特性,表面特性,厚さ,平面重,風合い,色および布の印象の各々の摩耗による変化を調べた.
摩耗布の引張り強度の変化と相関があった試験項目について傷みの指標を検討した結果,圧縮特性RCでは-20~-28%,厚さでは-2%以下,平面重では-7~-16%の変化率が,布地の傷みの目安となること分かった.風合いの官能評価では,摩耗により“毛羽”,“傷み”,“粗さ”,“ごわごわ感”,“色あせ”の印象が大きくなることが分かった.また,“色あせ”“粗ざ”“ごわごわ感”“毛羽”の評価値と“傷み”の評価値との間に高い相関が得られ,色の変化が傷みの指標の一つとなることが分かった.色の変化を原布との色差⊿E*abとして調べた結果,摩耗により色の変化がかなり感じられる程度,即ち⊿E*ab=1.5以上変化すると,摩耗布が傷んでいると認識できることが分かった.