幅広く和服地における縫い糸の疲労性を捉えるため, 和服地の主素材である絹布や近年需要の多いポリエステル布の縫製に着目し, 並縫い縫合時の縫合布より縫い糸を引き抜く際の引き抜き抵抗について検討した.すなわち試料布8種, 試料糸4種, 針目数3種の組み合わせによる, 10cm間並縫い縫合後の試料布より, 引っ張り試験機により縫い糸を引き抜き, 引き抜き抵抗挙動および引き抜きの初期最大抵抗値と平衡抵抗値を求めた.さらに, 試料布の厚さ, およびカバーファクターとの関係を検討した.その結果, つぎの事項が明確になった.
1.試料布, 試料糸, 針目数の組み合わせで引き抜き抵抗挙動は異なる様相を示す.引き抜きの初期最大抵抗値はいずれの試料布, 試料糸, 針目数においても平衡抵抗値より大きい.これは, 著者らが既に報告した綿布の場合と同様であり, 縫い糸は縫合布より引き抜かれる初期に大きな抵抗を受けることが絹・ポリエステル和服地においても確認された.
2. 絹・ポリエステル和服地いずれにおいても, 試料布の厚さの厚い順に引き抜き抵抗値は大きくなり, 試料布の厚さと引き抜き抵抗値には相関が認められた.また, カバーファクターとの関係では, カバーファクターが大きくなると引き抜き抵抗値は大きくなり, 両者の間には相関関係が認められた.
3. 10cm間の縫合針目数が増すと引き抜き抵抗値は増大する.60針目数においては, 厚さの厚い試料布では引き抜きの途中で縫い糸切断の現象がみられる.縫い糸の疲労性の観点から, 厚い布では針目の大きさは重要な可縫性の要因となる.また, 試料布の厚さが同じ場合は針目数が多くなると, 絹和服地よりすべりやすいポリエステル和服地の方が引き抜き抵抗値が小さい.さらに, 針目数と引き抜き抵抗値は非常に高い相関が認められた.
4. 試料糸では, 初期最大抵抗値, 平衡抵抗値いずれにおいてもフィラメント糸よりスパン糸の方が抵抗値は大きい傾向にある.
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