皮革はたんぱく質であるコラーゲン線維から成るが,その染色は鞣剤のタンニンやクロムの性質が染着性に影響を与える.クロム革の場合,従来から酸性染料などを用いて表面染色がなされているが,現在では染色堅牢度を考慮し,それに先立ち浸透染色が併用されるため,染色工程を複雑にしている.本報告では,クロム革の染色に直接染料クルクミンSを用い,その染着性について染色皮革のK/S値-λ曲線と顕微鏡写真を元に検討した.その結果,クルクミンSは長分子構造をもつアニオン性の表面型染料であるが,皮革表面に多く含有する金属イオンのクロムと配位結合するため染色初期から中期にかけて見かけ上は酸性染料と同様の挙動が認められ低pHの染浴において高い染着性を示した.同時に,皮革表面でのクロムとの結合が飽和状態以降においても色素構造中のスルホン酸アニオンと皮革コラーゲンのアミノ基カチオンとのイオン結合が長時間で徐々に増加することも明らかになった.
クルクミンSの種々染料濃度を用いた実用染色では,染料濃度が高くなるほど赤味が強くなる傾向が認められたが,吸収ピーク波長(420nm)のK/S値にはほとんど差は見られなかった.なお,染色皮革の耐光堅牢度,および洗濯(乾,湿),汗,摩擦堅牢度の測定を行ったところ,アルカリ性の汗,摩擦堅牢度がやや低くなるものの,その他の堅牢度はほとんど4-5の優れた結果を示した.
ウール糸,ウール糸にポリエステルをカバーリングした糸,ポリエステル糸のそれぞれで編んだ3種の編地を用いて,繰り返し洗濯による物性変化について検討した.洗濯前,洗濯1,5,10,20回後に各物性を測定した結果,ウールは物性変化が著しいことが明らかとなった.一方ウールにポリエステルをカバーリングしたもの,ポリエステルにおいては,繰り返し洗濯を行っても,大きな変化はみられなかった.ウールにポリエステルをカバーリングしたものは,洗濯前のウールと各物性類似した測定結果が得られた.よってウールにポリエステルをカバーリングすると,ウールの肌触りの良さを維持したまま,洗濯による物性変化を抑えられることが示唆された.