本研究は社会的規範と集団規範のずれにより起こる規範逸脱に対する,自己評価や感情について検討することを目的とした.大学生を対象に就職活動の面接を想像させ調査を行った.調査協力者は設定場面においてフォーマルなスーツとカジュアルなジーンズのいずれかを着用しており,周囲はそれとは逆の衣服を着用しているとした.想像後の不安や自己肯定感を測定したところ,面接時にスーツを着るという社会的規範を持つ者は,自身がカジュアルウェアであるときに自己評価の低下がみられた.一方,同様に規範意識を持つ者でも同調欲求や過剰適応傾向の高い場合は規範に対する正しさではなく,周囲からの逸脱により否定的感情や自己評価の低下がみられた.ここから,社会的規範に則していたとしても周囲から逸脱することで否定的変化がみられることが考えられた.
糸密度の異なる布を自作し,JISウォータ法を準用して,布に平行な外気流による布の透湿性の変化を観測した.布の水蒸気移動係数は,気流流速が大きくなると増大し,糸密度が大きくなると減少した.
布のある場合とない場合の水蒸気移動抵抗の差から求めた布自体の透湿係数と,気流流速の2乗との間に直線関係が認められた.この直線の勾配は,布の透湿係数の気流流速依存度を表しており,布の顕微鏡写真より求めた空隙率が19%以上では空隙率の増加とともに増大すること,19%未満の布においてはゼロとなり,布の透湿性に外気流の影響が及ばないことがわかった.気流流速と空隙率より,2種の試験布を通じてその透湿係数の予測式を得た.
植物染料を用いて繊維を緑色に染色する技術は,従来は鉄を発色補助剤として用いているが,色合いの濃さと耐光性の観点から改善すべき余地がある.我々は鉄と同じ遷移金属元素であるバナジウムを発色補助剤(媒染剤)として用いた新しい染色法の開発に取り組んでいる.濃度5×10-3 mol/Lで処理したバナジウム先媒染ウールを濃度50%owfの植物染料ヤシャブシで染色すると,耐光堅ろう度の高い濃緑色に染色できた.バナジウム先媒染ウールをESR分析したところ,オキソバナジウム錯体として繊維表面に付着していることがわかった.バナジウム先媒染ウールは皮膚への刺激性が低く,環境負荷を軽減可能な新しい媒染剤として有効であることが示された.