本論文では,見えない衣服である下着の関心の実態と背景にある心理について,下着に対する“こだわり''の観点から明らかにすることを目的とした.研究1では,下着に対するユーザの意識,特に,求める心理的機能の実態を明らかにし,その世代間の違いを検討した.結果,現代女性の比較的幅広い年代(18~59歳)において,下着への強く多様なこだわりが見られることが明らかになった.特に,若い世代は異性との交流場面でこだわりが強いが,決して異性に対する直接的な効果ばかりではなく,自分自身に対する効果を意識していることが示された.研究2では,お気に入りの下着に対する意識を調査し,下着へのこだわりの背景にある心理について明らかにすることを目的とした.その際には,心理的機能がどのような場面,目的で期待されているのか,心理的機能は下着の何が作り出しているのか,心理的機能を期待する背景にどのような欲求や個人要因が関与しているのかについて検討し,下着のこだわりの背景にある心理的機能について,新たな側面から明らかにすることを目的とした.さらに,下着のこだわりの心理モデル構築を目指した.結果,モデルは支持され,下着にも心理的な機能があり,その機能への期待が,下着へのこだわりに結びついているということが明らかになった.中でも,気合いの効果が極めて重要であり,様々な場面でのベースとなっていることが確認された.このことから,幅広い年代の女性が,日常生活において直面する様々な場面において,その場面に取り組み課題を達成するための心理的資源を得るために,それに合わせたお気に入りの下着を選択して着用していることが明らかになったといえる.
本研究の目的は,新たな友人関係を形成する際に他者の被服がどのような影響を与えるか,また個人がもつ友人とのかかわり方と被服行動の関連の検討である.大学生を対象に調査した結果,新たな友人関係を形成する際には,落ち着いた服装や自分と似た服装であると,話しかけやすく関係を構築しやすいと捉えられていた.さらに,同調的な友人とのかかわり方は同調を図るものとしての被服関心を,全方位的なかかわり方は個性や対人的外観を整えるものとしての被服関心を高めることがわかった.
エンバーミングとは,遺体を消毒,保存処理を施し,必要に応じて修復し,長期保存を可能にしようとする技法であり,我が国では年間10000件以上の施術が行われている.本研究は,このエンバーミングに焦点をあて,遺族の依頼を受け施術するエンバーマーが死後の装いに臨む際の心的過程を明らかにするとともに,施術機会がエンバーマー自身の働きがいに与える影響について検討した.5名のエンバーマーに面接調査を実施した結果,現職選択のきっかけが源泉となり,エンバーミング施術にあたるエンバーマーの心的過程には,施術の目標が“故人の希望の充足,満足”である「故人焦点」の意識と,施術の目的が“遺族の希望の充足,満足”である「遺族焦点」の意識とが存在し,その意識の在り様が顧客オーダーの解釈に最も強く影響を及ぼすことが示唆された.遺体の損傷修復および仕上げの化粧にあたっては,遺体に語りかけ,施術に関する故人の意思確認を行っていた.また,施術結果に対する適切なフィードバックが得られないことが多く,業務の満足感および達成感の阻害因となっていた.
本研究では,健康意識が,衣食住の各生活領域にどのように関わっているのかを検討する.85の男女大学生を対象に調査を実施した結果,以下のことが明らかとなった.
1)健康意識に関する項目を因子分析した結果,対人配慮志向,能動的志向,楽観的志向,非執筆志向の4因子が見出された.2)健康に関する一般的な行動項目を因子分析した結果,健康管理,快適志向,ふれあい,病気リスク回避の4因子が見出された.3)衣食住生活に関する行動を因子分析した結果,衣生活,食生活,住生活における健康行動構造が見出された.
これらの関連を検討した結果,対人配慮意識が人や動物とのふれあい行動や病気リスクを回避する行動を規定していること,能動的志向意識が衣生活に関連した行動を規定していることなどが見いだされた.また,他者とのふれあい行動と衣生活行動が関連していることが見いだされた.このように本研究からは,食生活に関する行動のみならず,装うことが健康行動に関連することが示唆された.