乳房全摘術後または乳房温存術後の被験者4名について胸部衣服内気候を測定した.ブラジャー内温度は,全摘術後者・温存術後者共に,術側が健側に比べて高かった.ブラジャー内湿度は,全摘術後者では術側が健側よりも高く,温存術後者では術側が健側よりもやや低い値を示した.とくに全摘術後者のシリコンパッドを装着した術側では著しい高温多湿状態が観察された.そこで,素材・構造・形状の異なる3種類のシリコンパッドを装着したときの衣服内気候を比較した.その結果,従来製品に比べて,温度調整素材を内包する製品や肌面に凹凸をもたせた製品では,パッド内の温度・湿度が低い値を示した.このことから,パッドの改良により装着時の温熱的不快感を軽減できる可能性が示唆された.
天然染料や天然顔料,合成染料を用いて,日本の染色家や染色業者が染めた多数の布,糸,和紙を分光測色計によって測色した.得られたL*a*b*値(CIELAB)から,天然染料の色彩的特徴を考察した.天然染料では,鮮やかな黄色や赤色が染まり,特にウコン,エンジュ,キハダ,オウレン,タマネギ,ベニバナ,コチニール,ラックの彩度が高かった.一方で,鮮やかな紫色や青緑色,明度の低い鈍い緑色はなかった.群青や緑青などの顔料染色物には天然染料では染まらない色のものがあったが,マイクロスコープによる拡大観察(200倍)によって染料との区別が可能であった.これらの得られた色彩データより,合成染料と天然染料の色彩比較を行い,天然染料で染められる色と合成染料でしか染められない色について明示した.江戸時代以前の伝統色の再現染色布の一部には,天然染料や顔料では染められない色が現れていた.