ラット脂肪組織のブドウ糖代謝に対するコルチゾルの作用をインスリンのそれと対比させつつ検討した.脂肪組織を270μU/mlのインスリンと共に37℃ でインキュベートすると, 1時間目に既にブドウ糖代謝量 (
14C-ブドウ糖から
14C-総脂質への転換量) が有意に増加したのに対し, コルチゾル10
-4Mと共にインキュベートした場合は, 2時間目に至ってブドウ糖代謝の有意の抑制が認められた.両者を同時にメジアムに添加した場合は, インスリン作用は何らの抑制を受けなかった.しかし, 脂肪組織をコルチゾルと共にあらかじめ30分以上前培養して後, インスリンをメジアムに添加すると, 後者の作用には明らかな減少が起こり, コルチゾルの前培養時間が長い程, 糖代謝抑制はより顕著に現われた.1mg/mlトリプシンで1時間処理した脂肪組織では, インスリンの糖代謝促進作用は消失したが, コルチゾルの抑制効果は存続して認められ, その作用機序が, インスリン・リセプターとindependentである事が認められた.一方10
-5Mエピネフリンは脂肪組織のブドウ糖代謝を明らかに抑制したが, 10
-5Mコルチゾルと10-5Mエピネフリンを同時にメジアムに加えて脂肪組織をインキユベートすると, 糖代謝抑制は有意に強く (P<0.05) 現われ, 両者間にsynergismの存在することが認められた.これらの成績から, コルチゾルとインスリン間の拮抗機序として, 細胞膜上の同一のリセプターをめぐる競合よりも, adenyl cyclase系に対する両ホルモンの相互作用に由来することが推定された.
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