糖尿病性網膜症 (以下網膜症) の進展と血小板活性化状態の関連を明らかにする目的で, 網膜症各病期における血小板凝集能, 血小板特異蛋白β-thromboglobulin (以下β-TGと略す), platelet factor-4 (以下PF-4と略す) の血漿中濃度および,.血小板内含有量, さらに, ヘパリン静注負荷前後の血漿中PF-4濃度の変化について検討した.対象はインスリン非依存型糖尿病男性48名であり, 健常者16名を対照 (A) とした.糖尿病症例は網膜症の所見により, mild (B), stable (C), progressive (D) の3群に分類した.mild (B) 群ではβ-TGおよびPF-4の血漿中濃度, 血小板内含有量, ヘパリンによるPF-4の濃度変化は健常者と有意差を認めなかった, prc-proliferative stage以上にあるC群の血漿中濃度は健常者に比し, β-TG (51.4±25.9ng/m
l vs. 29.0±13.0ng/m
l, M±SD p<0.05), PF-4 (21.1±11.2ng/m
lvs. 8.5±4.8ng/m
l, M±SDp<0.01) が高値であった.一方同群のPF-4血小板内含有量は健常者に比し有意の減少を呈した (p<0.05).網膜症がC群と同じstageにあり, 現在進行しつつあるD群の血漿中濃度はβ-TGが21.0±5.3ng/m
l., PF-4が4.5±1.9ng/m
l (M±SD) とむしろ低値で, 血小板内含有量もβ-TGは29.8±4.5pg/platclet, PF-4は11.2±0.9pg/platelet (M±SD) と減少していた.C, D両群とくに後者は一種の“acquircd storagc pool deficiency”状態を呈していることが示唆された.
D群では血漿中β-TG, PF-4が低値となるが, ヘパリン静注負荷前後の血漿PF-4値の増加が27.6±11.7ng/m
lと4群中最も高値になることから血管内皮細胞も関与している可能性が考えられた.
以上より, 網膜症が同じstageにあっても, 現在進行しているか否かにより血小板活性化状態に差異があり, 血管内皮細胞も血小板の活性化, および網膜症の進展に関与している可能性が示唆された.
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