サクビトリルバルサルタン(ARNI)が処方された通院中の2型糖尿病全症例に対し,HbA1cと体重の変化,HbA1c変化量に関連する背景因子を後方視的に検討した.傾向スコアマッチング法により背景が揃ったアンジオテンシンII受容体遮断薬継続群(ARB群)を対照として設定した.マッチング後,各群45例が解析対象となり,BMI 27.6±5.4 kg/m2,収縮期血圧149.1±17.9 mmHg,HbA1c 6.9±0.7 %であった.ARNI投与後,収縮期血圧,HbA1c,体重がARB群と比較し有意に低下し,DPP4阻害薬使用者は非使用者と比較しHbA1c低下が有意に大きかった.重回帰分析の結果,HbA1c前値高値例,体重減少例においてARNIによるHbA1c低下が顕著であった.ネプリライシン阻害によるGLP-1活性上昇やナトリウム利尿ペプチド増加が,血糖改善や体重減量の機序として推察された.
研究に同意が得られた糖尿病患者400名において,Webにて回答を得た患者背景と対象―看護者関係評価尺度(Client-Nurse Relationship Scale,CNRS),糖尿病問題領域質問票(Problem Area in Diabetes Survey,PAID)を分析した.PAIDは,男性333名で30.0点(中央値:以下同様),女性67名で42.5点と女性が有意に高得点であった.CNRSの下位尺度は,人間的信頼関係が2.9点,威圧感が3.5点,専門性への信頼感が2.7点であった.PAIDとCNRSの関係では,負の相関が認められた.看護者と良好な関係を持つ患者は糖尿病治療負担感情が低いことが示された.
小児期発症1型糖尿病患者の成人期医療への移行レディネスについて,内科に転科済みの患者の特徴を明らかにした上で,レディネスの関連要因を明らかにした.12~24歳の患者69名に対し,成人期医療への移行レディネス,糖尿病自己管理状況,病気の受け止め方,糖尿病自己効力感を調査した.レディネスが形成されていたのは,内科に転科済みの患者であっても11名中4名(36.4 %)のみで,小児科通院中の患者では58名中14名(24.1 %)であった.レディネスの『知識』と『行動』の総得点の中央値は,いずれも内科に転科済みの患者の方が高かったが有意差は認められなかった.また,レディネスの関連要因として,糖尿病キャンプ参加回数,年齢,罹病期間が新たに明らかになった.レディネスは,内科に転科する前に形成されるべきだが,それができていない現状があることから,小児科での移行の準備を整えるための支援の充実が急務である.
JDCP studyベースライン時の2型糖尿病患者5,451人の糖尿病性対称性多発神経障害(DSPN)の有病率と特徴を調査した.DSPNは糖尿病性神経障害を考える会の簡易診断基準を用いて診断し,有病率は35.8 %であった.DSPNの有意なリスク因子は,年齢(OR 1.57;95 %CI 1.42-1.73),糖尿病罹病期間(1.32;1.21-1.43),BMI(1.19;1.09-1.30),収縮期血圧(1.06;1.01-1.10),HbA1c(1.15;1.09-1.22),ビグアナイド薬の使用(1.22;1.06-1.39),インスリン療法(1.59,1.36-1.84),TC(0.98;0.96-1.00),運動療法(0.85;0.73-0.98)であった.本調査により日本人2型糖尿病患者におけるDSPNの有病率と特徴およびリスク因子が明らかとなった.
大規模前向き観察研究であるJDCP studyにおいて,2型糖尿病患者(5,944名,ベースライン時年齢:61.4歳,女性:39.9 %,糖尿病罹病期間:10.8年)の癌発症について検討した.観察期間中に322名の癌発症を認め,粗発症率は10.35/1000人年,上位3位は女性で大腸癌,乳癌,肺癌,男性では胃癌,大腸癌,肺癌/前立腺癌の順であった.糖尿病診断後から初めて癌と診断されるまでの期間(標準偏差)は,女性13.79(±7.90)年,男性17.11(±8.50)年と女性で有意に短いが,診断年齢は女性67.39(±7.27)歳,男性68.44(±6.62)歳と同等であった.cox比例ハザードモデルの検討では,年齢の増加,飲酒歴,急性心筋梗塞の既往が癌発症リスクと有意に関連していた.本報告は,本邦の2型糖尿病患者と癌発症に関する重要な疫学的知見と考える.