糖尿病治療中の低血糖対処の自信を問う自己記入式評価尺度であるHypoglycemic Confidence Scale(HCS)の日本語版を作成し,1型糖尿病における信頼性,妥当性を検討した.内部一貫性の指標であるCronbach's α係数は0.86,再検査信頼法は相関係数0.72と信頼性が確認された.確認的因子分析では原版と同様に1因子9項目構造でモデルの適合性が示された.HCSは治療満足度とは正の相関,糖尿病の負担,全般性の不安,過去1年間の重症低血糖の回数とは負の相関を示し,収束的妥当性が確認された.以上の結果より,HCS日本語版は十分な信頼性と妥当性を有することが示唆された.
62歳,女性.18年来の2型糖尿病を有し,2年前より治療を中断していた.39.6 ℃の発熱およびJCS 300の意識障害で救急搬送され,高浸透圧高血糖状態(以下,HHSと略す)およびKlebsiella aerogenesによる右腎の急性腎盂腎炎と診断された.重症敗血症の状態であり,入院時よりICUでの集学的治療を開始した.HHSは改善するも第7病日に炎症の再燃があり,造影CT検査による再評価で急性巣状細菌性腎炎(以下,AFBNと略す)の所見を認め,一部で腎膿瘍への進行を疑った.内科治療抵抗性のAFBN・腎膿瘍のため外科的治療を検討した.膿瘍の位置から経皮的ドレナージが困難であり,第10病日に右腎摘除を施行し,その後速やかに全身状態は改善した.内科治療抵抗性の急性腎盂腎炎に対しては造影CT検査で再評価し,AFBNや腎膿瘍への進行例では常に外科的治療の必要性を検討することが重要である.
69歳男性.2型糖尿病でインスリン治療中に肺腺癌と診断され,3年前よりニボルマブで治療を開始した.ニボルマブでの治療中にインスリン必要量が徐々に増大し,血糖コントロールは悪化していた.59コース後より食思不振と倦怠感が出現,糖尿病ケトアシドーシスの診断で入院となった.入院後の精査でインスリン分泌は枯渇していたものの,膵島関連自己抗体は陰性であった.画像検査ではニボルマブ投与前と比較して,著明な膵萎縮を認めた.近年,免疫チェックポイント阻害薬投与中に進行性の膵臓容積減少を認めるケースの報告が散見される.治療中の膵臓容積減少は,糖尿病の新規発症のみならず,2型糖尿病の増悪・インスリン依存状態への進行を示唆する所見である可能性があり,インスリン分泌能の変化に注意を払いつつ経過観察する必要がある.
症例は61歳の男性.41歳から糖尿病,肥満と診断され,加療を受けていた.48歳で糖尿病性ケトアシドーシスを発症し,当科に入院,サブクリニカルクッシング症候群を伴うACTH非依存性大結節性副腎皮質過形成(primary bilateral macronodular adrenal hyperplasia,PBMAH)と診断した.その後,両側甲状腺乳頭癌を発症したため,PBMAHの主要責任遺伝子の一つであるARMC5の変異を末梢血で検討し,ヘテロ接合体変異[c.1855C>T(p.R619*)]を確認した.糖尿病治療はリラグルチドと強化インスリン療法を併用し,HbA1c 6~7 %台を推移したが,61歳時に原発性膵癌を併発,死去した.PBMAH,糖尿病では腫瘍発生リスクが増加し,PBMAHでの耐糖能異常合併率も高いことから,併存例ではより厳格な腫瘍のスクリーニングを行うべきと考えられる.
Prader-Willi症候群(PWS)は視床下部に先天異常があり過食から高度肥満をきたし高率に2型糖尿病を発症する.本症例は高度肥満(BMI 43.8 kg/m2)による拡張不全型心不全で入院を繰り返す血糖コントロール不良のPWSであった.今回セマグルチド0.25 mgの週1回皮下注射を開始したところ,早期から著明な体重減少とHbA1c低下を示した.投与前,投与後4か月では体重が108 kgから89 kgへ19 kg減少,HbA1cは8.2 %から5.7 %に2.5 %低下した.心不全の再発も認められなくなった.Glucagon-like peptide(GLP)-1receptor agonist(RA)は体重減少作用を有することからPWSに使用した報告は存在するが,少量のセマグルチドで著効を示した報告はなく,GLP-1RAによる心不全改善効果に関しても示唆を与える.
症例は74歳男性.主訴は下肢の脱力と発熱.血液培養で肺炎桿菌Klebsiella pneumoniae(以下KPと略)が検出され,セフトリアキソンの治療を開始した.一次感染巣を検索したが,肝胆道感染症,尿路感染症,呼吸器感染症,脊椎椎間板炎,心内膜炎等の所見を認めなかった.入院9日目の造影CTで新たに,腹部大動脈の拡張と周囲の脂肪織濃度上昇,動脈壁内の膿瘍の所見を認め,KPによる感染性大動脈炎と診断した.血管内感染症として感受性のあるセファゾリンを高用量で投与し治癒した.HbA1cは6.5 %で,血糖コントロールにインスリン治療を要した.通常,動脈壁の感染は成立し難いが,進行した動脈硬化巣は感染巣となりうる.易感染性と動脈硬化を有する糖尿病患者において,感染性動脈内膜炎を菌血症の鑑別に挙げるべきである.
アルコール性ケトアシドーシス(AKA)と正常血糖糖尿病ケトアシドーシス(euDKA)は共に高血糖のないアニオンギャップ(AG)開大性の代謝性アシドーシスを示すことから鑑別が難しい.51歳,男性.日常的にウイスキー5,6杯摂取する大酒家が口渇感・動悸を認め救急要請し入院した.血糖79 mg/dL,pH 7.261,HCO3- 14.0 mmol/L,AG 25.2 mmol/L,乳酸5.1 mmol/L,尿ケトン4+であった.当初AKAとして輸液が行われたが,血中乳酸値正常化後もアシドーシスの進行を認めた.当科に転科後,SGLT2阻害薬の内服歴があったことからeuDKAと考え,インスリンおよびブドウ糖の持続静脈内投与を行ったところ改善した.アルコール多飲者に認めた高血糖のない代謝性アシドーシスでも,SGLT2阻害薬服用者では早期からインスリンの投与を検討すべきと思われた.