糖尿病
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50 巻, 1 号
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原著
  • —透析非糖尿病,透析糖尿病および非透析糖尿病患者間の比較—
    稲田 扇, 西村 周三, 松島 宗弘, 清野 裕, 津田 謹輔
    2007 年 50 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,1)人工透析患者の医療費,2)糖尿病ではない透析患者(以下,透析非糖尿病患者),糖尿病の透析患者(以下,透析糖尿病患者)および透析をしていない糖尿病患者(以下,非透析糖尿病患者)のquality of life (QOL)の比較,3)透析非糖尿病患者,透析糖尿病患者,非透析糖尿病患者のQOLに影響を与える因子の解析を目的とした.松島医院で治療中の透析患者106名の診療報酬明細書(2004年)を調査したところ,1人あたり1カ月医療費は428,788±44,249 (Mean±SD)円であった.このうち70名にKDQOL-SF(腎疾患特異的尺度+包括的尺度)を実施したところ,総合評価は透析非糖尿病患者63.94±15.96 (Mean±SD)点,透析糖尿病患者47.32±17.39点であった(p=0.00001). 透析糖尿病患者24名と京都大学附属病院に通院する非透析糖尿病患者87名の両者を併せて包括的尺度(SF36)のスコアを合併症別にみると,合併症なしで73.09±9.57点,合併症1種類67.71±8.33点,2種類60.17±8.61点,3種類37.94±9.24点,4種類36.42±14.52点と合併症の数が増えるにつれ総合評価は低くなった.また本来,腎疾患患者に対して行うべき腎疾患特異的尺度の測定に加えて,同じ測定項目を非透析糖尿病患者に実施した.将来,人工透析を行うことになった場合を想像してもらいアンケートした「腎疾患(透析)の日常生活への影響」,「腎疾患(透析)による負担」の項目は,非透析糖尿病患者のほうが透析患者よりスコアが低かった.透析患者のKDQOL-SFの各項目と非透析糖尿病患者の包括的尺度(SF36)の各項目に影響を及ぼす要因を重回帰分析したところ,透析患者は年齢の上昇・同居者なし・朝の透析・透析中にアンケートの回答した場合・他の疾病(合併症等)がマイナスに影響しており,非透析糖尿病患者は男女差が大きく同居者なしがマイナスに影響していた.KDQOL-SFでは,透析糖尿病患者のほうが透析非糖尿病患者よりすべての項目においてスコアが低かったことから,糖尿病をもつ患者が透析を導入した場合,QOLへの影響も糖尿病をもたない透析患者より一層低くなることが示された.また,1人あたり1カ月透析医療費は428,788(年間約514万円)と高額であった.これらのことから,医療費の削減やQOLを著しく低下させないためには糖尿病の1次予防とともに糖尿病を発症した後の2次・3次予防も重要であるといえる.
  • 山田 晴生, 福澤 嘉孝, 世古 留美, 角田 博信, 深沢 英雄, 各務 伸一
    2007 年 50 巻 1 号 p. 9-15
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/20
    ジャーナル フリー
    本研究は脂肪肝(FL)発症の危険因子をロジスティック回帰分析より求め,FL発症確率を検討すると共に,減量によるFL消失確率を明らかにすることを目的とした.対象は611名,平均年齢50.6±9歳.FLの危険因子の中からBMI, HDLコレステロール(HDL), 中性脂肪(TG), HbA1c (A1c), 尿酸(UA)を用いFL発症確率を検討すると,非FL群の危険因子平均値ではFL発症確率は男性15%, 女性1%と推定された.A1c 6.5%まで上昇するとFL発症確率は男性75.5%, 女性22%, TG 200 mg/dlではFL発症確率は男性で,ほぼ100%, 女性は85%であった.また,多重リスク症候群を疑わせる状態からの減量効果ではBMI 26 kg/m2, A1c 5.8%, UA 7.0 mg/dl, TG 150 mg/dl, HDL 39 mg/dlでのFL発症確率は男性88%, 女性46%がBMI 1 kg/m2の減量でFL発症確率男性59%, 女性9.3%, BMI 2 kg/m2の減量で男性20%, 女性7.6%に激減するものと予測された.このことから男性は体重の約10%, 女性は約5%の減量で十分効果が認められると推定された.
  • 本田 律子, 吉田 洋子, 原 陽子, 川合 厚生, 北里 博仁, 菅澤 源, 野田 光彦, 菊池 方利, 赤沼 安夫
    2007 年 50 巻 1 号 p. 17-23
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/20
    ジャーナル フリー
    日本人1型糖尿病患者41名(男19, 女22, 平均年齢47.4±16.0歳,Body mass index 21.9±2.20 kg/m2, 平均罹病期間149.4±93.6カ月)にインスリングラルギン(以下グラルギン)を12カ月間使用した.変更12カ月後のHbA1cには変更前と差を認めなかった.1日2回以上NPHインスリンを注射していた25名中18名が,グラルギンに変更後に注射回数が減少した.変更後1日あたりのインスリン使用量は,変更直前の37.4±13.9単位から12カ月後には35.7±12.9単位へと減少した.1日に使用するインスリンに占めるNPHあるいはグラルギンの量比は欧米の報告よりも小さかった.また,体重には有意な変化はみられなかった.しかし,グラルギンに変更後は重症低血糖や就寝中低血糖の頻度が減少した.日本人1型糖尿病のインスリン治療にグラルギンは,注射回数の減少,重症低血糖の減少などの利点があると考えられる.
症例報告
  • 末原 節代, 竹内 康雄, 福永 惠, 伊藤 直人
    2007 年 50 巻 1 号 p. 25-29
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/20
    ジャーナル フリー
    症例は67歳女性.2005年3月,左足第1趾の発赤腫脹を契機に近医にて初めて糖尿病,高脂血症,高血圧症,足壊疽と診断された.治療を開始されたが改善なく当院紹介入院.HbA1c 10.7%, 尿蛋白4 g/日,前増殖網膜症,下肢腱反射消失,ABI右0.76, 左0.42, 左足第1趾に4 cm大の潰瘍を認めた.合併症の進行した糖尿病とFontaine IV度の閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans, ASO)と診断.抗生剤,PGE1を2週間投与したが効果なく,皮膚科にて中足骨切断の適応とされた.そこでLDLアフェレシス(LDL apheresis, LDL-A)を2回/週,計10回施行したところ,潰瘍の縮小を認め,切断を回避できた.LDL-A終了5カ月後の外来では潰瘍はほぼ治癒状態であった.透析患者のASOにLDL-Aの有効性が近年報告されているが,非透析患者においても有効であり,ASO合併糖尿病足病変の治療の選択肢として有用である.
  • 柴田 早織, 岩瀬 正典, 藤井 裕樹, 中村 宇大, 佐々木 伸浩, 井元 博文, 中並 尚幸, 飯田 三雄
    2007 年 50 巻 1 号 p. 31-36
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/20
    ジャーナル フリー
    症例は26歳女性.初回妊婦.2型糖尿病の家族歴あり.妊娠8週頃より妊娠悪阻が出現し,11週に突然口渇,全身倦怠感,軽度の意識障害が出現した.BMI 15.7 kg/m2, 血糖1,049 mg/dl, HbA1c 5.5%, 血中総ケトン体13,260 μmol/l, pH 7.282, BE-17.9 mmol/l, 糖尿病ケトアシドーシスと診断し,インスリン治療を開始した.抗GAD抗体陰性,1型糖尿病に関連するHLAなし.血清膵外分泌酵素が上昇していたが,膵炎を示唆する所見はなかった.その後血糖が低下し,インスリンを中止し得た.その時の75g OGTTは正常であった.妊娠週数が進んでも血糖は良好であり,妊娠39週で3,146 gの正常女児を経膣分娩した.妊娠中に劇症1型糖尿病類似の糖尿病ケトアシドーシスを発症したが,内因性インスリン分泌能は保たれており,短期間のインスリン療法後耐糖能正常となり,正常分娩に至った極めて稀な症例である.
  • 稲田 千鶴子, 村石 和久, 光井 暁子, 吉田 博, 市川 史, 友田 弘道, 山田 研太郎
    2007 年 50 巻 1 号 p. 37-40
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/20
    ジャーナル フリー
    C型肝炎に対するペグインターフェロン(PEG-IFN)α2bとリバビリン併用療法中に発症した1型糖尿病を3例経験した.症例1は52歳男性で,治療開始4カ月後にはHbA1c 5.0%であったが6カ月後にHbA1c 10.1%と高血糖を認め,インターフェロン(IFN)治療は中止しインスリン強化療法を開始した.症例2は63歳女性で,IFN治療開始2カ月後にケトアシドーシスで糖尿病と診断された.HbA1cは2カ月で5.0%から8.4%に上昇し,IFN治療は中止しインスリン強化療法を開始した.症例3は49歳男性で,治療開始4カ月後に血糖554 mg/dl, HbA1c 7.1%となった.インスリン強化療法を行いながらIFN治療は続行した.3例とも発症時の抗GAD抗体陽性であった.従来よりIFN治療中に発症した1型糖尿病の報告はあるが0.1%以下と少ない.PEG-IFNとリバビリンの併用療法により,われわれは143例中3例(2.1%)の1型糖尿病の発症を経験しており,自己免疫に与える影響が大きい可能性があるため注意を要すると考えられる.
コメディカルコーナー・原著
  • 宮川 慶子, 長岡 匡, 山本 吉章, 土山 奈央美, 能登 裕
    2007 年 50 巻 1 号 p. 41-46
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/20
    ジャーナル フリー
    強化インスリン療法中で基礎インスリンをグラルギンに変更したインスリン依存状態の糖尿病患者14例について,変更後48週における臨床効果を検討した.同時に低血糖の頻度についても調査した.対象患者のHbA1cは9.2±1.0%で4∼8週にかけて有意に低下し,48週後は8.5±0.9%であった.総インスリン投与量は30.6±8.7 U/日から,4∼16週にかけて有意に低下し,48週後は28.6±9.5 U/日となった.対象患者のうち8例が夜間の低血糖が減少したと回答した.24週から48週の平均HbA1cが9%以上の症例では,変更初期におけるインスリン投与量の変動が大きく,低血糖の頻度が増加した症例が多くみられた.夜間低血糖を減少させる点で,グラルギンへの変更は有用と考える.しかし,変更初期に血糖コントロールが不安定となり,総インスリン投与量を減量せざるを得ない症例では長期的にはコントロールが悪化する可能性もあり注意が必要である.
委員会報告
  • —1991∼2000年の10年間,18,385名での検討—
    堀田 饒, 中村 二郎, 岩本 安彦, 大野 良之, 春日 雅人, 吉川 隆一, 豊田 隆謙
    2007 年 50 巻 1 号 p. 47-61
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/20
    ジャーナル フリー
    アンケート調査方式で,全国282施設から18,385名が集計され,1991∼2000年の10年間における日本人糖尿病患者の死因を分析した.18,385名中1,750名が剖検例であった.
    1) 全症例18,385名中の死因第1位は悪性新生物の34.1%であり,第2位は血管障害(糖尿病性腎症,虚血性心疾患,脳血管障害)の26.8%, 第3位は感染症の14.3%で,糖尿病性昏睡は1.2%であった.悪性新生物の中では肝臓癌が8.6%と最も高率であり,血管障害の中では糖尿病性腎症が6.8%に対して,虚血性心疾患と脳血管障害がそれぞれ10.2%と9.8%とほぼ同率であった.虚血性心疾患のほとんどが心筋梗塞であり,脳血管障害の内訳では脳梗塞が脳出血の2.2倍であった.
    2) 剖検例において死亡時年齢から糖尿病患者の死因をみると,血管障害全体では年代が上がるにつれて頻度が高くなるが,腎症および脳血管障害の頻度には40歳代以上では年代による大きな差は認められなかった.しかしながら,虚血性心疾患は年代の上昇に伴って増加し,50歳代以上では他の血管障害に比して頻度が高く,70歳代では血管障害全体の約50%を占めていた.悪性新生物は,40歳代以上の各年代で最も高く,60歳代においては46.3%と極めて高頻度であった.また,感染症による死亡には40歳代以上の各年代で大きな差はなかった.
    3) 血糖コントロールの良否が死亡時年齢に及ぼす影響をみると,血糖コントロール不良群では良好群に比し,男性で2.5歳,女性で1.6歳短命であり,その差は悪性新生物に比し血管合併症とりわけ糖尿病性腎症と感染症で大きかった.
    4) 血糖コントロール状況および糖尿病罹病期間と血管障害死の関連を検討すると,糖尿病性腎症,虚血性心疾患,脳血管障害ともに血糖コントロールの良否との関連性は認められなかった.罹病期間に関しては,大血管障害は細小血管障害である糖尿病性腎症と比較して糖尿病歴10年未満でも頻度が高かった.
    5) 治療内容と死因に関する検討では,食事療法単独21.5%, 経口血糖降下薬療法29.5%, 経口血糖降下薬の併用を含むインスリン療法44.2%とインスリン療法が最も多く,とりわけ糖尿病性腎症では1,170名中683名58.4%を占め,虚血性心疾患での1,687名中661名39.2%, 脳血管障害での1,622名中659名40.6%に比べて高頻度であった.
    6) 糖尿病患者の平均死亡時年齢は,男性68.0歳,女性71.6歳で同時代の日本人一般の平均寿命に比して,それぞれ9.6歳,13.0歳短命であった.前回(1981∼1990年)の調査成績と比べて,男性で1.5歳,女性で3.2歳の延命が認められたが,日本人一般においても男性1.7歳,女性2.7歳の延命が観察されており,糖尿病の管理・治療が進歩したにも拘らず,患者の生命予後の改善に繋がっていないことが明らかとなった.
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