糖尿病患者における胆汁酸代謝異常を糞便中胆汁酸排泄量の側而から検討した.対象は健常者13例, 一次性糖尿病で神経障害のない群13例 (I群), 神経障害を右する群11例 (II群), 糖尿病性下痢症2例 (III群) である.これら例の糞便中胆汁酸をガスクロマト法で測定するとともに, 糞便中脂肪酸にも検討を加えた.成績は以下のごとくである.
1) 1日あたりの糞便排泄量は, 健常者141.89, I群185.09, II群238.59, III群はそれぞれ2809,700gであったが, 各群間に有意差は認められなかった.
2) 1日あたりの糞便中胆汁酸排泄量は, 健常者4.56mg/kg, I群6.89mg/kg, II群15.0mg/kg, III群はそれぞれ15.2, 24.7mg/kgでII群は健常者およびI群に比し有意に増加していた.
3) 糞便中胆汁酸排泄量に対する一次胆汁酸百分率は, 健常者で14%, I群13.7%, II群27.6%であり, III群ではそれぞれ40.8%, 76.5%と著増していた.
4) 糞便中脂肪酸排泄量については, 5.09/day以上の異常を呈するものが, I群, II群に各1例認めたが, 程度は軽度であった.
以上の結果から, 糖尿病性神経障害を有する例では, 糞便中胆汁酸排泄量が増加するが, 糖代謝異常のみでは糞便中胆汁酸排泄量に大きな影響を与えず, 全消化管の機能障害および回腸機能障害に基づく可能性が示唆された.
抄録全体を表示