60歳以上の老年者糖尿病型耐糖能が, 脳梗塞, 胸部, 腹部および大腿動脈石灰化という4つの血管障害の個々の症例における組み合せの検討から, 脳梗塞を認める群 (DM
2) と脳梗塞を認めない群 (DM
1) の2群に大別されること, この際大腿動脈石灰化 (+) を含む組み合わせのほとんどがDM
1に分布することを前報において報告した. そこで今回さらに従来より糖尿病の病態を示すとされている, 糖尿病性網膜症, インスリン分泌能, 空腹時血糖値, 糖負荷後の血糖頂値, および糖負荷後の血糖パターンなどの特性値を用いてDM
1とDM
2が判別可能であるか否か, 判別可能とすればどの特性値の寄与が大か, 言い換えるとDM1とDM2の特徴的所見は何かという点につき, カテゴリカル正準判別分析法および判別関数を用い検討した. その結果ここで与えた5特性による2群の判別は, 脳梗塞を認める群 (DM
2) で70%, それを認めない群 (DM
1) で67%の正診率を示した。その際この2群の判別に寄与する観測特性は, 糖尿病性網膜症およびインスリン分泌であった. その検討から脳梗塞を認める老年者糖尿病型耐糖能例では, 糖尿病性網膜症を有するがインスリン分泌が比較的高値である例の多いことが明らかとなった.
一方血管障害の種々の組み合わせの中で, 大腿動脈石灰化 (+) を含む組み合わせは, 大部分DM1に分布したが, 症例数およびその母集団に対する割合 (頻度) はDM
1, DM
2間に差異は認めなかった。胸部, 腹部大動脈石灰化についても両群間において, その頻度に差異を認めなかった. したがって今回の検討では大動脈石灰化例の臨床的特徴は明らかにされなかった. しかし, 大動脈石灰化が脳梗塞と異なった分布を示すこと, 臨床的特徴が脳梗塞では明らかにされたのに比し大動脈石灰化では明らかにされなかったという事実は, 大動脈石灰化が脳梗塞とは異なった臨床的特徴, 病因を有することを示唆したものと考えられた.
最後にここで導出した (正準) 判別式を用いて-見均-と考えられる老年者糖尿病型耐糖能が2群に分け得ることの意義につき考察を加えた.
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