異なる種類の野菜の食物繊維によって血糖値上昇抑制効果に違いがあるか検討した.対象は健常者15名である.試験食は,基本食①はきつねうどん250 gとご飯200 g(以下基本食①),食物繊維は難消化性デキストリン4 g含有飲料(以下試験食②),大根サラダ(以下試験食③),オクラサラダ(以下試験食④)である.試験食②~④は先に食物繊維を完食後に基本食①を摂取した.血糖測定は食事前,15分後,30分後,60分後,120分後である.基本食①と其々の試験食との2群間の比較は,統計ソフト「IBMSPSSStatistics20」を用いてwilcoxon順位和検定を行った.基本食①と試験食④の2群間の食後15分において,有意差(Z=-2.075,p=0.037)が見られた.他の試験食では有意差はなかった.粘性のある食物繊維の方が,食後15分において血糖値上昇抑制効果がみられ粘性が吸収を遅らせると考えられた.
脂肪肝を示唆する検査値(AST値<ALT値)がどのような2型糖尿病患者にどの程度存在し,糖尿病薬治療がどのように影響するかを糖尿病データマネジメント研究会会員施設のCoDiC-MSへの入力データを用い調査した.対象者12,710名の37.5 %がALT値優位であり,AST優位患者と比較し,男性の割合が高く,年齢が若く,BMI・HbA1c・血清中性脂肪・血清C-ペプチド・HOMA-IRが高値であり,FIB-4 indexが低く,糖尿病合併症合併率は低かった.各種糖尿病治療薬使用開始1年後,チアゾリジン薬とSGLT2阻害薬は著明なALT値の低下をきたし,ALT優位患者(6,003名)の24.9 %がALT値優位でなくなった.このAST値優位への変換には,女性,高年齢,長期糖尿病罹病期間,高BMI,薬剤投与前の高γ-GT・FIB-4 index,低AST・HSIであることが有意に関与していた.
症例は91歳女性.糖尿病の既往はなく近医で維持血液透析を行っていた.意識障害を主訴に救急搬送された.58 mg/dL未満の低血糖とせん妄,意識障害が持続して見られブドウ糖液の持続静注が必要であったが,血液透析中による輸液量制限のため,末梢からのブドウ糖液では低血糖が是正できず中心静脈を介して高カロリー輸液を必要とした.低血糖発作時の採血検査で血糖5 mg/dL,血清インスリン(IRI)267 μU/mL,血清Cペプチド60.5 ng/mLと高インスリン血性低血糖を認めた.治療としてジアゾキシドを少量から漸増し最終的に透析日に1日250 mgを朝食後100 mg,夕食後150 mgの2回に分けて投与した.その間の血糖は持続血糖モニタリング(CGM)で経過観察した.本剤による治療の結果,ブドウ糖の経静脈投与なしにTIR 98 %(56~158 mg/dL)の良好な血糖調節可能であった.
緒言:ATP感受性カリウムチャネル(KATPチャネル)遺伝子の機能獲得変異は若年発症糖尿病の原因となり,本疾患にはスルホニル尿素薬が有効である.思春期に管理不良となり,比較的高用量のグリベンクラミドが著効した1例を報告する.症例:17歳男性.日齢47にKCNJ11遺伝子のc.124T>C(p.C42R)変異による新生児糖尿病を発症し,約1年で寛解した.9歳時に再発し,グリメピリド0.5 mgを開始された.15歳以降に肥満傾向とともに増悪し,グリメピリド増量,サキサグリプチン併用を行うもHbA1c 11.1 %となり紹介受診した.グリベンクラミド負荷による内因性インスリン分泌は良好であり,グリベンクラミド単剤に変更した.HbA1cは速やかに6 %台となり,目立った低血糖なく経過した.結語:若年発症KATPチャネル性糖尿病は通常の2型糖尿病と鑑別困難なことがあるが,異なる治療戦略が必要である.
症例は65歳女性.約30年の罹病歴があり,自律神経症状を伴う1型糖尿病患者で,1年ほど前に突如として摂食不能なほどの高度の食欲不振や食後の腹痛を自覚するようになった.血液検査や内視鏡,超音波,CT検査などの画像検査による精査を行うも原因特定に至らなかったが,最終的に99mTcスズコロイド標識試験食を用いた胃排出能シンチグラフィーにより糖尿病性胃不全麻痺と診断した.一般的に糖尿病性胃不全麻痺に対しては食事療法や様々な投薬治療が行われるが,自然に増悪と寛解を繰り返すこともある.本症例は様々な内科的加療を試みたが約1年にわたり全く改善せず,栄養欠乏が進行し続けたため,腹腔鏡下胃亜全摘術を行った.外科的治療の奏功により,その後糖尿病性胃不全麻痺の症状は改善し,栄養状態も徐々に改善し,通常の日常生活が可能になった.
症例は50歳代男性.X-9年に2型糖尿病と診断され治療中であった.X-5年8月に左尿管癌,多発リンパ節転移と診断され治療を開始し,2次化学療法としてX-1年11月から抗PD-1抗体(ペムブロリズマブ)を開始.X年2月下旬より食欲低下を認め,口渇,吐き気も出現したため3月初旬に当院を受診.血液検査で糖尿病性ケトーシスと診断し同日入院.空腹時血清Cペプチドは1.1 ng/mLから0.3 ng/mLに低下し,入院後補液とインスリン持続静脈注射を行い入院18日目に退院した.発症後2年経過したが,インスリン分泌は低下したままである.本症例は抗PD-1抗体投与後に内因性インスリン分泌が急激に低下したことから,抗PD-1抗体投与に伴う1型糖尿病と診断した.抗PD-1抗体投与中は慎重にケトーシスおよびケトアシドーシスを疑う症状の有無を確認し,高血糖を認めた場合には内因性インスリン分泌の評価を行う必要がある.
患者は50歳代,女性.20歳代から低血糖発作を反復し,7年前に反応性低血糖と診断.1年前に15 kgの体重増加(BMI 26.0 kg/m2)とともに糖尿病を指摘され(HbA1c 9.3 %),当科に入院.血糖コントロールは改善したが,2ヶ月前より30~40 mg/dLの低血糖を頻発し,当科に再紹介.BMI 22.8 kg/m2,HbA1c 5.9 %,低血糖の原因となる服薬なく,インスリン抗体は陰性.副腎不全はなく,造影CTで膵に腫瘍性病変なし.75 g-OGTTでの血漿血糖(PG)(mg/dL)/インスリン(IRI)(μU/mL)は,前:94/9.1,120分:209/545と負荷後に著明な高インスリン血症が惹起され,5時間後に血糖46 mg/dLまで低下.絶食試験は陰性であったが,72時間後のPG 50/IRI 2.1で,グルカゴン負荷後のΔPG 17 mg/dL.選択的動脈内カルシウム注入試験では,上腸間膜動脈でIRIの2倍以上の増加(8.6→17.7 μU/mL)が認められ,non-insulinoma pancreatogenous hypoglycemia syndrome(NIPHS)の病態と考えられた.GLP-1受容体作動薬であるDulaglutideを開始したところ,血糖変動は速やかに平坦化し,低血糖発作は消失した.DulaglutideによるNIPHSの治療例は報告されておらず,稀な高インスリン血性低血糖症として報告する.