糖尿病の発症機序の理解を深めるために, 糖尿病の膵ラ島の定量化を試み, 併せて主要な臨床成績との比較検討を行った.
ラ島を膵組織中に分散する大小の球としてステレオロジーの理論をあてはめ, 剖検膵の組織計測 (linesampling) によりラ島の総数, 総容積, 平均半径などの諸量を定めた.材料としては, 新鮮な剖検例から選択した成人発症糖尿病 (MOD) 26例, 若年発症糖尿病 (JOD) 5例, 対照28例を使用した.さらに, 膵の血管病変とラ島の量的変化との関係をみるために, 非糖尿病・高血圧症9例にも検索を加え, 次の結果を得た.
1) ラ島の総容積
Viは対照群, MOD群, JoD群で0.97, 0.60, 0.26cm3であり, 糖尿病の2群で著しく減少している.高血圧群では
Viは0.84cm3であり, 明らかな減少はみられない.2) 全症例を通じて, ラ島の総容積
Viと50g経口糖負荷試験血糖最高値の間には負の相関がみられ, ラ島総容積の小さな個体ほど耐糖能が低いという関係が示された.3) 糖尿病群では, 空腹時血糖値と
Viの間にも類似の負の相関がみられる.これらの結果より, ラ島の総容積
Viは個体の耐糖能を表す適切な形態指標と考えられる.4) ラ島の総数Ni, 平均半径r, ラ島1個の平均容積
Viには各群間に有意差がみられない.他方, 全症例を通じて, ラ島総数Niと平均半径rの間には明瞭な負の相関が存在し, 総数の多い個体ほど小型のラ島が主体をなしている.しかし, Niおよびrにより糖尿病の膵ラ島を特徴づけることは困難であった.
抄録全体を表示