皮下注射では1日総量約1,000単位におよぶ大量のインスリンでもコントロールできないインスリン抵抗性糖尿病患者でAprotininの併用が著効した症例を報告する.症例は20歳女性.15歳の頃, 急性発症し, 約1年間は中間型インスリン32単位程度でコントロールされていたが, その後, 感冒症状に伴い増悪し, 72単位まで増量してもコントロールできないため当院へ紹介された.第1回入院中には, インスリンの皮下注により血中フリー・IRIは著明に上昇するにもかかわらず, 最高340単位の投与でもコントロールできなかった。
インスリン抵抗性の原因検索では, 抗インスリン抗体, 抗インスリン受容体抗体はいずれも陰性.グルカゴン, 成長ホルモン, コーチゾールなどの分泌も異常なかった.
これらの結果から, この時点でのインスリン抵抗性は, インスリン受容体あるいは受容体以後の障害に起因するものと考えられた.インスリン投与法を皮下注から筋注に変更後寛解を示し, 44単位で退院した。
約15ヵ月後, 再び増悪して入院したが前回とは異なり, インスリンの皮下注では血中フリー・IRIは上昇しなくなり, 血糖値も低下しないが, 静脈内投与では血中フリー・IRIの上昇と血糖値の低下が認められた.
皮下注部位におけるインスリンの酵素的分解を疑い, protease inhibitorであるAprotininの併用を試みたところ著効し, インスリン投与量は併用前最高単位980から48単位まで減量された.
現在まで約8ヵ月間, Aprotininの併用を続けているが重篤な副作用は認められていない
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