症例は33歳女性. 15歳時発症のMODYで, インスリン療法を行っていたが, 経過中数年間の放置歴がある. HbA
1c6.8%, 正常アルブミン尿, 正常血圧で妊娠成立したが, 妊娠10週で頻回の嘔吐のため経口摂取不能となり, 入院となった. 重症妊娠悪阻と診断し, 中心静脈栄養を行った. 甲状腺中毒症状や甲状腺腫は認めなかったが, 遊離T4 1.9ng/d
l, 遊離T3 4.5pg/m
l, TSH<0.03U/m
lと甲状腺機能亢進症を認めた. TSHレセプター抗体や甲状腺自己抗体は陰性であったが, 血中hCGが147, 600mU/m
lで血中hCG上昇による甲状腺機能亢進症と診断した. 甲状腺機能は血中hCGの低下に伴い正常化し, 自覚症状も改善し, 経口摂取が可能となり, 妊娠18週で退院したしかし, 妊娠中期以降, 妊娠中毒症を発症し, 妊娠31週で再入院となった. 入院安静にて血圧や蛋白尿は改善したが, 妊娠36週で胎児仮死のため緊急帝王切開を行った. 児には異常を認めなかった, 分娩後一過性に高血圧や網膜症が増悪し, アルブミン尿の正常化まで分娩後1年を要した. hCGは甲状腺刺激作用のため妊娠初期の一過性甲状腺機能九進症を惹起するとともに, 妊娠中毒症の発症に関係する可能性が示唆された.
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