症例は65歳男性.1980年,会社の健診で2型糖尿病と診断された.2003年からインスリン療法を導入されたが,自己中断を繰り返していた.2009年7月頃よりインスリン注射部位の掻痒・腫脹・硬結を認め,同時期より血糖コントロールは悪化し,8月5日外来受診時のHbA1c(11.5%以下HbA1cはJDS値で表記)と血糖高値(453 mg/d
l)のため入院.好酸球(25%),IRI(2063
μU/m
l),抗インスリン抗体(結合率86.9%),特異的IgE型インスリン抗体(2.67 UA/m
l)でインスリンに対する即時型アレルギーとIgG型インスリン抗体の存在が考えられた.インスリン製剤や経口糖尿病薬の変更を試みた.皮下注の総使用インスリン量が100単位/日でも血糖コントロール不良のため,第10病日インスリン静注に変更し,ステロイド(PSL30 mg/日)を併用とした.第16病日,CSIIに変更し,徐々に血糖値と皮膚反応の改善を認めた.入院第30病日CSIIから,注射部位を腹部から大腿に変えて皮下注に変更し,皮膚反応はさらに改善し同治療を継続し得た.今回我々はインスリン製剤に対しIgEおよびIgG型インスリン抗体のいずれもが陽性であり,両者共に臨床症状を呈した症例を経験した.治療に難渋したものの,複数のインスリン抗体が存在する症例を診療するうえで貴重な症例であると思われた.
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