糖尿病
Online ISSN : 1881-588X
Print ISSN : 0021-437X
ISSN-L : 0021-437X
55 巻, 3 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著
病態・代謝異常・合併症
  • 水野 展寿, 小川 栄一
    2012 年 55 巻 3 号 p. 175-184
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/24
    ジャーナル フリー
    当院でメトホルミン(以下Met)を10年間内服した2型糖尿病(DM)で,腎障害,肝障害,飲酒歴がないにも関わらず,一度でも乳酸が基準値を超えたDMは43名.乳酸上昇の主因が,Metによる代謝異常か,ピルビン酸を介した異常かを,乳酸/ピルビン酸比(以下L/P比)を用いて後ろ向きに解析し,DMの食事負荷(N=30)や,運動負荷(N=6)とも比較した.結果:43名の乳酸(16.2±4.7 mg/dl),ピルビン酸(0.99±0.3 mg/dl),血糖(217±71 mg/dl)は,乳酸が基準値内のMet内服DM(N=58)の乳酸(12.8±3.2 mg/dl),ピルビン酸(0.74±0.25 mg/dl),血糖(186±83 mg/dl)より有意(P<0.01)に高かったが,L/P比に有意差はなかった.食事負荷では,ピルビン酸の上昇に伴い乳酸も上昇したがL/P比の増加はなく,運動負荷では乳酸,ピルビン酸,L/P比ともに増加した.43名の乳酸上昇は,L/P比が上昇した危険な代謝異常でなく,上昇したピルビン酸と血糖を介した上昇と考えられた.
患者心理・行動科学
  • 羽深 美恵子, 櫻井 晃洋, 山崎 雅則, 駒津 光久, 江口 尚, 野見山 哲生, 福嶋 義光
    2012 年 55 巻 3 号 p. 185-192
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/24
    ジャーナル フリー
    糖尿病の患者教育では,食事や運動など環境要因への支援や情報提供が行われるが,遺伝要因に関する情報提供や教育は,ほとんど行われていない.本研究では2型糖尿病患者群113名,対照群137名を対象に,糖尿病発症への遺伝要因の関与についての認識,特に家族歴の有無の影響について調査した.患者群では「糖尿病のなりやすさ」について,家族歴がない群で遺伝要因を小さく評価する回答が多かった(家族歴有群60.0 % vs家族歴無群8.8 %,p<0.001).健常者群では糖尿病家族歴の有無で回答の傾向に有意差を認めなかった(家族歴有群55.4 % vs家族歴無群43.3 %,p=0.07).「親の罹患と子の罹患リスク」に関する問いでも同様の傾向を認めた.遺伝要因に関する正しい認識は,自分の体質を知り健康管理に役立てることを可能にするが,誤った過大評価や過小評価は治療意欲を低下させる可能性がある.遺伝要因に関する情報提供のあり方や具体的な介入方法の検討が必要である.
社会医学・医療経済学
  • 田中 麻理, 伊藤 裕之, 押切 甲子郎, 安徳 進一, 阿部 眞理子, 竹内 雄一郎, 三船 瑞夫, 当金 美智子
    2012 年 55 巻 3 号 p. 193-198
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/24
    ジャーナル フリー
    2型糖尿病患者708例を対象に,一年間の直接医療費として,外来医療費を算出した.外来医療費は,平均で38.8万円/年であり,年齢,糖尿病の罹病年数とともに増加した.非薬物療法群で18.7万円/年,経口薬群で30.9万円/年,インスリン群で57.5万円/年であった.細小血管症,大血管症については,合併群では非合併群に比し,外来医療費が高額であった.動脈硬化の危険因子として,高血圧症,高LDL-C血症,肥満,CKDステージ3期以降を挙げた場合,保有数の増加に伴い外来医療費も上昇した.重回帰分析では,これら4つのうち,CKDステージ3期以降と高血圧が,外来医療費の有意な説明因子であった.2型糖尿病の外来医療費には,年齢,罹病期間,治療内容や血管合併症,動脈硬化の危険因子などが関係する.加えて,eGFRの低下や動脈硬化のサロゲートマーカーが異常を示す場合は,積極的な検索による合併症予防が,将来的な医療費抑制につながる可能性がある.
症例報告
  • 大山 貴子, 秋山 孝輝, 西川 健一郎, 柳川 達生
    2012 年 55 巻 3 号 p. 199-203
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/24
    ジャーナル フリー
    ミチグリニドは,経口投与後の最高血中濃度到達時間が早く消失半減期が短い.また肝代謝のため腎機能低下例でも血中に残存しにくく,これまで遷延性低血糖の報告はない.今回我々は,高齢慢性腎不全患者でミチグリニドによる遷延性低血糖の症例を経験したので報告する.症例は80歳女性.73歳時に右腎腫瘍切除術をうけている.50歳頃,2型糖尿病と診断され,75歳よりミチグリニドによる治療が開始となった.受診当日の朝食は摂取し,薬剤も通常通り内服した.昼前に低血糖性昏睡で当院に搬送された.BMI 14.9 kg/m2,CCr 18.0 ml/min.ミチグリニドを中止し経過観察にて入院としたが,最終内服30時間後に昏睡をきたした.昏睡時の血糖値15 mg/dl,CPR 8.3 ng/ml,IRI 17 IU/lで,ミチグリニド血中濃度は741.3 ng/mlと著明高値よりミチグリニドによる遷延性低血糖と診断した.グルクロン酸抱合体濃度は低値ではなく,主要代謝経路であるグルクロン酸抱合障害はないと考えた.腎機能低下のみでは遷延性低血糖を説明できないため,薬物代謝酵素の異常を考慮しDMET PLUS Premier Pack(Affymetrix社,米国)にて薬物代謝遺伝子マーカーを検討したが,原因を特定できなかった.ミチグリニドにより遷延性の重篤な低血糖をきたした初の症例と思われ報告した.
  • 富田 益臣, 松岡 義, 壁谷 悠介, 川崎 麻紀, 香月 健志, 及川 洋一, 島田 朗, 渥美 義仁
    2012 年 55 巻 3 号 p. 204-208
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/24
    ジャーナル フリー
    症例は36歳男性.口渇にて近医を受診したところ高血糖を指摘され当院を受診した.HbA1c11.8 %(以下HbA1cはJDS値で表記(糖尿病53:450,2010))と高血糖,尿ケトン体陽性を認め,インスリン頻回注射を外来にて導入した.2週間後,左大腿痛を自覚し,当院を受診した.著明な左大腿部の自発痛,腫脹,圧痛を認め当院に入院した.糖尿病性筋梗塞と診断し,3週間の入院安静にて軽快した.糖尿病性筋梗塞は通常,罹病期間の長い糖尿病合併症が進行した血糖コントロール不良の1型糖尿病患者に多く発症する稀な合併症であり,細小血管合併症の一症状と考えられている.一方,本症例は血糖コントロール不良の2型糖尿病患者であるが,罹病期間も短く,網膜症,腎症,神経障害といった糖尿病合併症は認めなかった.高血糖状態の他,インスリン治療を開始したことによる血糖の変動による血管傷害や血流障害がその発症原因として考えられた.
  • 佐久間 一基, 松澤 陽子, 齋藤 淳, 伊藤 浩子, 大村 昌夫, 西川 哲男
    2012 年 55 巻 3 号 p. 209-214
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/24
    ジャーナル フリー
    症例は38歳女性.父,兄に糖尿病あり.1歳時に,21水酸化酵素欠損症(塩類喪失型)と診断された.成人期はデキサメタゾン補充となり2.5 mg/日まで増量され,体重が増加した.34歳時HbA1c上昇,グリメピリドが開始されたが血糖コントロールが悪化,入院となった.クッシング徴候を認めた.糖尿病性細小血管症,動脈硬化は認めず,高インスリン血症を呈した.薬剤性クッシング症候群,ステロイド糖尿病と考え,グリメピリドを中止,メトホルミンとボグリボースに変更.ステロイド補償を一部ヒドロコルチゾンに変更後,体重減少,血糖コントロール改善を認めた.21水酸化酵素欠損症のステロイド補償量は,ACTH,アンドロゲン過剰を防ぐ最低限の量が望ましい.加齢,肥満,糖尿病家族歴など2型糖尿病リスク因子を持つ患者では,ステロイド過量補償による糖尿病発症リスクも高く,ステロイド補償療法に細心の注意が必要である.
  • 麦島 通乃, 大屋 純子, 滝澤 美保, 原田 真耶, 石井 晶子, 丸山 聡子, 三浦 順之助, 岩本 安彦
    2012 年 55 巻 3 号 p. 215-219
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/24
    ジャーナル フリー
    症例は55歳男性.18年前より2型糖尿病を指摘され,インスリン療法にて加療されていたが,コントロール不良であった.2010年1月より,発熱,湿性咳嗽を認め,インスリン療法の自己中断により意識障害を認めたため,緊急入院となった.入院時,ケトアシドーシス,著明な脱水,炎症反応高値であり,DIC,呼吸不全を認めたため,人工呼吸器管理となった.精査の結果,右肺尖部に空洞を伴う結節影,下大静脈血栓を認め,肺炎により形成された血栓が塞栓源となり,敗血症性肺塞栓症を来たしたものと考えられた.起炎菌の同定には至らなかったが,抗生剤投与,集約的治療により全身状態は改善して退院した.本症例は,肺炎を契機にDKA,呼吸不全,DIC,下大静脈血栓症を併発し,敗血症性肺塞栓症を疑われた重症例であったが,救命し得た貴重な症例と考えられたため文献的考察をまじえて報告する.
地方会記録
feedback
Top