糖尿病における網膜出血 (以下, 出血と略す) と血漿soluble fibrin monomer complexes (以下SF MCと略す) 濃度との関係を明らかにする目的で, 糖尿病11例 (男5, 女6例, 年齢48~70歳, 平均59.9歳罹病年数平均7.8年) を対象とし, 15カ月間にわたり眼底検査を施行, この間に認められた出血と静脈血SFMC濃度との関係を調ベた.一方, SFMC濃度の異常高値と血管障害との関連を明らかにする目的で, SFMCの血中よりの半減時間を, 正常家兎ならびにendotoxin 13γ/kg処置家兎で求め, 比較検討した.
11例中10例で網膜出血を, 1例で硝子体出血をみた.出血後1ヵ月以内のSFMC (16.1±6.3mg/100m
l) は, 観察開始時のそれ (6.6土6.3mg/100m
l) ならびに出血直前の値 (9.9土5.7mg/100m
l) より有意に上昇した (それぞれP<0.01.P<0.05).しかし, 3例 (No.1, 8, 11) においては出血に先行してSFMCは異常高値を示した.血漿fibrinogen (以下, Fbgと略す) 濃度は, 出血直後 (318.9±74.8mg/100m
l) は出血直前 (294.9±39.0mg/100m
l) より高い値を示した症例が多かったが有意差はなかった.早朝空腹時血糖値には有意な変動はみられなかった.SFMC濃度の半減期時間は, 正常家兎で平均30分であったがendotoxin前処置家兎で平均4分と, 著しく短縮した.
以上より, 出血とSFMC濃度の上昇とは関係が深く, むしろ, 血管内でのthrombin発生, SFMC濃度の上昇にひきつづき出血が起こった可能性が大きいと考えられる.しかも, SFMCの血中よりの半減時間よりして, thrombin発生は, 短時間内に頻回に起こったものと推察される.SFMC濃度の高値が血管障害をさらに増強させるか否かは, 今後, 検討を要すると思う.
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