人工内耳は感覚器の人工臓器として画期的な治療法といえるが,術後の言語聴取成績は症例により様々である.今回我々は各種因子と言語聴取成績との相関について調べ,どの因子がより強く言語聴取成績に影響を与えているか,また影響を与えている因子からそれを予測しうるかどうかを数量化理論I類を用いて検討した.対象は,1991年7月から大阪大学にてコクレア社製22チャンネル人工内耳の埋め込み術を施行した症例で,音入れ後6ヵ月以上経過した言語習得後失聴者51名とした.男性18名,女性33名,手術時平均年齢は53.4歳,平均失聴期間は8.6年であった.失聴原因は内耳炎9人,耳毒性5人,髄膜炎3人,原因不明34人であった.言語聴取成績の評価は,肉声による,母音,子音,単語の正答率およびビデオによる単音節,単語,文の正答率を用いた.いずれも人工内耳単独での評価であり,音入れ後3ヵ月以降の最も良い成績のものを用いた.各種因子と言語聴取成績との単相関を調べた結果,手術時年齢はビデオによる単音節聴取成績と,朱調期間は肉声による単語聴取成績と負の相関を認めた.失聴原因,岬角電気刺激検査,温度眼振検査と言語聴取成績との間には明らかな関係は認めなかった.また,残聴の有無およびコード化法はすべての成績において有意差を認めた.次に,肉声による単語聴取成績と関係のあった,失聴期間,残聴の有無,使用電極対数,コード化法と聴取成績との関係を数量化理論I類で解析した結果,コード化法,失聴期間,残聴の有無,使用電極対数の順で聴取能に影響を与えていたが,各因子を総合して単語取成績を予測するのは困難であった.
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