日本耳鼻咽喉科学会会報
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101 巻, 6 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 水野 浩美, 佃 守, 持松 いづみ, 大長 さおり, 西村 剛志, 馬場 優
    1998 年 101 巻 6 号 p. 799-806
    発行日: 1998/06/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    頭頸部癌への新しい免疫療法を開発する目的で,IL-2遺伝子導入の基礎的検討を行った.ampliconのdefective herpes simplex virusをvectorとしてヒトIL-2遺伝子を,口腔底癌由来のKB細胞に導入した(KB/IL-2).KB/IL-2の培養上清中には高濃度のIL-2の産生がみられ,培養上清を用いてヒト末梢血単核細胞(PBMC)を培養すると,PBMCのKB細胞に対する細胞障害活性は有意に高まった.KB細胞,KB/IL-2細胞,lacZ遺伝子を導入したKB細胞(KB/lacZ)をそれぞれnude mouseに皮下移植した.KB/IL-2細胞移植群のみがマウス血清中のIL-2濃度,IFN-γ濃度が有意に高値を示した.KB/IL-2細胞移植群マウスから分離した脾臓細胞の細胞障害活性も有意に高値を示した.KB/IL-2細胞移植群(n=5)マウスで5匹のうち3匹は,腫瘍は完全に消失したが,KB/lacZ細胞移植群(n=5)およびKB細胞移植群(n=5)のマウスはすべて120日以内に死亡した.
    今回defective HSV系を用いてIL-2遺伝子をKB細胞に導入した結果,高濃度のIL-2が産生されたことが確認された.さらに,KB/IL-2細胞をマウスに皮下移植すると産生されたIL-2によって,NK細胞を中心とした免疫担当細胞が活性化され,IFN-γとの共合作用によって腫瘍を拒絶したと考えられた.
  • 真鍋 恭弘, 斎藤 武久, 斎藤 等
    1998 年 101 巻 6 号 p. 807-813
    発行日: 1998/06/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    サリチル酸により誘発される下丘聴覚ニューロンの異常放電に対する塩酸リドカインの影響を検討した.サリチル酸投与によりモルモット下丘聴覚ニューロンの自発放電が増大した.その増大した放電に対し臨床で用いられるのと同濃度のリドカインを静脈より投与したところ,ニューロンによって反応は異なったがほとんどの場合,放電が完全に消失あるいは減弱した.その減弱の程度と放電の消失時間で分析するとリドカィンに対する感受性の違いによって非常に感受性の高い群と低い群の2つにニューロンが分類された.また,放電の減衰曲線を解析するとリドカインのナトリウムチャンネルに対するuse-dependent block機構が発現していることが確認された.聴覚伝導路における異常放電に起因すると考えられている耳鳴をサリチル酸を用い作製し,リドカインがそれを消失させることを実験によって観察した.これは耳鳴に対するリドカインの作用機序を解明する一助になるものと考えられる.
  • 井口 芳明, 八尾 和雄, 岡本 牧人, 馬嶋 正隆
    1998 年 101 巻 6 号 p. 814-820
    発行日: 1998/06/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    アレルギー性鼻炎は抗原抗体反応が発症の引き金であることは間違いがない.しかし鼻粘膜の色調,症状に個体差があり,アレルギー性鼻炎の反応の場である鼻粘膜そののに反応性の違いがあると考えた.そこで今回スギ,ヒノキを単独抗原としたアレルギー性鼻炎のスギ花粉非飛散期症例の冷水刺激に対する鼻粘膜反応性について検討した.比較検討のためスギ花粉飛散期症例と非飛散期症例の温水洗浄液を回収した.健常者の反応性とも比較した.それらの鼻腔洗浄液の総蛋白質濃度,アルプミン濃度,26kD蛋白質濃度を求めた.総蛋白質濃度は鼻汁量を反映し,アルブミン濃度は血管透過性,26kD蛋白質は腺分泌性をそれぞれ表す.スキ花粉症の冷水刺激群(非飛散期)は,総蛋白質濃度,アルブミン濃度,26kD蛋白質濃度の3者ともに温水洗浄群(非飛散期)よりも増大を示したが,飛散期の症例のレベルへの増大は認めなかった.花粉非飛散期の鼻腔冷水刺激により26kD蛋白質濃度は温水洗浄の濃度の5.3倍となり,総蛋白質濃度,アルブミン濃度の増大率よりも大きかった.すなわちスギ花粉症の花粉非飛散期の鼻粘膜は寒冷に対して反応性が亢進しており,抗原抗体反応を介さない条件で鼻汁症状をきたすことが分かった.これはスギ花粉症の鼻粘膜反応性の1つといえる.
  • 鈴木 正志, 須小 毅, 坂本 菜穂子, 茂木 五郎
    1998 年 101 巻 6 号 p. 821-828
    発行日: 1998/06/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    アレルギー性鼻炎患者において,X線上副鼻腔に異常陰影を認めることが少なくなく,これはアレルギー性副鼻腔炎と呼ばれる.しかし,その副鼻腔炎病態とアレルギー性鼻炎の関連性についての検討は十分ではない.アレルギー性鼻炎患者にみられる副鼻腔炎の特徴とI型アレルギー反応のかかわりを検討する目的で,臨床上アレルギー性副鼻腔炎と診断された患者を対象として,非アレルギーの慢性副鼻腔炎患者(慢性副鼻腔炎患者)を対照群とし,その臨床像および病態の特徴につき比較検討した.検討項日は,アレルギー性副鼻腔炎患者20例および慢性副鼻腔炎患者20例では,初診時の臨床症状•鼻所見鼻汁の細菌検査およびX線検査における上顎洞陰影所見であり,副鼻腔貯留液の採取できた各14例および15例では,それら貯留液中の好酸球数•好中球数,単位タンパク量あたりのサぐトカイン量,ケミカルメディエーター量である.その結果,自覚症状•他覚所見としての後鼻漏では,アレルギー性副鼻腔炎で有意に出現程度が低かった.また鼻腔の菌検出率は,明らかにアレルギー性副鼻腔炎で低かった.副鼻腔貯留液でのEG1陽性細胞とEG2陽性細胞は,いずれもアレルギー性副鼻腔炎で有意に多くみられ,一方好中球はアレルギー性副鼻腔炎でも好酸球より多数みられた.貯留液中のIL-1β,IL-8では両者に差はみられなかったが,アレルギー性副鼻腔炎でIL-4は多い傾向にあり,IL-5は有意に多く検出された.ロイコトリエンC4/D4/E4ゃプロスタグランデインE2は有意差がなかった.
    以上から,アレルギー性鼻炎に合併して起こる副鼻腔炎には,細菌が検出されにくく,後鼻漏が少ないという臨床的特徴がみられ,その副鼻腔貯留液には好酸球とIL-5が多く検出されることが特徴である.したがって,非アレルギーの慢性副鼻腔炎とは異なる病態を持つと考えられ,アレルギー性鼻炎との深いかかわりが示唆された.
  • 川島 貴之, 井脇 貴子, 山本 好一, 土井 勝美, 久保 武
    1998 年 101 巻 6 号 p. 829-835
    発行日: 1998/06/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    人工内耳は感覚器の人工臓器として画期的な治療法といえるが,術後の言語聴取成績は症例により様々である.今回我々は各種因子と言語聴取成績との相関について調べ,どの因子がより強く言語聴取成績に影響を与えているか,また影響を与えている因子からそれを予測しうるかどうかを数量化理論I類を用いて検討した.対象は,1991年7月から大阪大学にてコクレア社製22チャンネル人工内耳の埋め込み術を施行した症例で,音入れ後6ヵ月以上経過した言語習得後失聴者51名とした.男性18名,女性33名,手術時平均年齢は53.4歳,平均失聴期間は8.6年であった.失聴原因は内耳炎9人,耳毒性5人,髄膜炎3人,原因不明34人であった.言語聴取成績の評価は,肉声による,母音,子音,単語の正答率およびビデオによる単音節,単語,文の正答率を用いた.いずれも人工内耳単独での評価であり,音入れ後3ヵ月以降の最も良い成績のものを用いた.各種因子と言語聴取成績との単相関を調べた結果,手術時年齢はビデオによる単音節聴取成績と,朱調期間は肉声による単語聴取成績と負の相関を認めた.失聴原因,岬角電気刺激検査,温度眼振検査と言語聴取成績との間には明らかな関係は認めなかった.また,残聴の有無およびコード化法はすべての成績において有意差を認めた.次に,肉声による単語聴取成績と関係のあった,失聴期間,残聴の有無,使用電極対数,コード化法と聴取成績との関係を数量化理論I類で解析した結果,コード化法,失聴期間,残聴の有無,使用電極対数の順で聴取能に影響を与えていたが,各因子を総合して単語取成績を予測するのは困難であった.
  • 佐野 肇, 岡本 牧人, 平山 方俊, 小野 雄一, 新田 光邦
    1998 年 101 巻 6 号 p. 836-840
    発行日: 1998/06/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    予後不良とされるろう,ろう型突発性難聴の聴力回復について検討し,突発性難聴の病態を考察することを目的とした.初診時の5周波数平均聴力が100dB以上の51例について聴力の回復を検討した.治療は22例に対し外来でステロイドを内服させた.残り29例に対しては入院させ,ステロイド内服以外に高圧酸素療法,プロスタグランジンの静脈内投与,星状神経節ブロックなどを加えた.
    聴力最終予後は不変例は意外に少なく,5周波数平均聴力として多くは55dBから80dBのレベルにまで回復した.少ないながら2例が治癒に至った.聴力の回復は翌日から始まるものから3週間以上もたってから回復するものまでみられた.2週間以内に回復が始まる症例では最終聴力は多くが55から80dBに分布し,特に早期に回復が始まる症例の一部はそれより良好な予後を示した.2週間以降に回復を開始する症例では,半分の症例で80dBを超える最終聴力を示した.これらの結果からろう,ろう型突発性難聴の病態について考察を加えた.
  • 杉内 智子, 浅野 公子, 河村 直子
    1998 年 101 巻 6 号 p. 841-848
    発行日: 1998/06/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    一般に急性中耳炎は伝音難聴を示すが,時に骨導聴力低下を伴う例のあることが知られている.今回,感音難聴を伴う急性中耳炎のうち,多量の耳漏が持続した特徴ある5症例について報告した.
    初診時主訴は耳痛3例の他,難聴4例,耳閉感と耳鳴および眩暈感が各1例と多彩な聴覚症状が特徴的で,4例が中等度,1例が高度の混合難聴を示した.初診時,鼓膜は発赤腫脹し,水疱形成は2例のみで,鼓膜切開にて腫脹した鼓室粘膜と多量の淡黄色水様性耳漏を認めた.外耳道や耳後部の発赤腫脹などの急性炎症所見はなかったが,CT検査では全例に患側の乳突洞•乳突蜂巣を充満するisodensityな陰影を認め,典型的な急性症状を欠くものの急性乳様突起炎の併発と考えられた.
    治療はまず,抗生剤と1例を除いてステロイド剤の投与を行った.鼓膜切開を初診時から積極的に行い,3例に鼓膜換気チューブを留置した.治療に伴い4例の聴力は治癒したが,高度難聴を示した1例(対側耳:35.0dB:)は,51.3dBの感音難聴を残した.
    この5症例以外の過去経験した感音難聴を伴った急性中耳炎26例のうち,画像検査を再検討し得た20例中9例にも乳突洞•乳突蜂巣の陰影を認めた.
    急性中耳炎においても,特に聴覚症状を訴える場合はもちろん,可能な限り聴
    力検査を行い,積極的な治療と十分な注意が必要であると思われた.
  • 岡本 英之, 鶴田 至宏, 宮原 裕, 田中 治, 松永 喬
    1998 年 101 巻 6 号 p. 849-855
    発行日: 1998/06/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    唾液腺多形腺腫の増殖動態を探るため,固定検体からFlow cytometryを用いて核DNA量を測定し,症例間および腫瘍内部分を組織像の違いで比較検討した.S+G2M%が代数学的に0%以下となったものはnear diploidパターンと規定し,その割合も比較に用いた.症例間では明らかな違いはなかった.腫瘍内部分では粘液軟骨腫様部が主体で部分的に上皮様部の存在する部分で増殖能が高く,粘液軟骨腫様部へ分化していく部分で増殖能が高いことが推察された.aneuploidパターン,polyploid cellの出現を示したものはなかったが,S+G2M%が20%以上の高値となった症例が4例あった.1例が再発例であったこと以外に臨床的な特徴はなく,組織型にも特徴はなかった.
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