日本耳鼻咽喉科学会会報
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76 巻, 11 号
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  • 本田 弘
    1973 年 76 巻 11 号 p. 1323-1337
    発行日: 1973/11/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    1. 目的:経卵窓球形嚢手術の内耳に対する影響を臨床前ならびに実験的に追求し,内耳手術の可能性について考察を加えた.
    2. 実験法:
    a) 臨床例としてはメニエール病患者でsacculotomy 10例,tack operation 2例,およびosmotic in-duckion法をおこなった2例と,耳硬化症でstapedectomyをおこなつた2例の計16例で検討した.
    b) 実験的には成熟モルモットを使用して,種々の経卵円窓手術をおこない,術後の平衡機能検査を施行,いろいろな術後時点で側頭骨連続切片を作製し,cochlear and vestibular reconstructionを行なつて病理所見と検査所見を対比した.
    3. 結果:
    a) 動物実験での経卵円窓内耳手術による内耳障害は内耳炎によるものであり,無菌性でも感染性で
    も起つた.
    b) 実験動物に対する術後の平衡機能障害は例頭骨病理で変化が生ずる前にすでに機能検査では障害が推定された.
    c) 動物のsacculotomy後のataxic testでは障害は軽度で,病理上は耳石系障害に留まつた.
    d) メニエール病に対するsacculotomyでは前庭系障害をきたさず,蝸牛系障害をきたすことが多いが,正常耳に対するsacculotomyは前庭系障害が主で蝸牛系障害は少ない.
    e) 臨床的内耳の部分障害では,術後,水平性視方向性注視眼振をみることがある.
    f) 経卵円窓内耳手術は感染防止に留意すれば,術後の病理的変化を最小限におさえることができ,有効な手術的アブローチのひとつと考えられる.
  • 佐藤 意生
    1973 年 76 巻 11 号 p. 1338-1340
    発行日: 1973/11/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    目的:喉頭移殖後における声帯の十分な機能の回復をうるために,内喉頭筋を正常な神経を伴つたまま自家移殖することによる声帯の機能の回復状態を観察することである.
    実験方法:この実験には4匹の犬のいつれも右側における前筋および後筋が用いられた.これらの筋肉はそれぞれの神経を伴つて起始部,付着部から十分余裕をもつて切断,摘出された後,再びもとの位置にもどされ,3-O Chromic gutによつて各筋肉の旧位置のところに縫合された.観察方法としては声帯の呼吸運動に伴う動きが1秒間18コマのMovie filmに記録され,また同時に両側後筋に刺入された84Micronの銅線による直接の刺激によつて引きおこされる声帯の外転運動が64コマのHigh Speed Movie filmに刺激と同期したFlash cubeによる照明下に記録された.加うるに,両側それぞれの刺激閾億が測定された.
    実験結果:術後3~4週間羅に4匹の実験動物のうち3匹に呼吸運動に伴う声帯の動きが出現したが,とくにそのうちの1匹は非常に良好な結果を示し,術後2ヵ月目には声帯の呼気時における伸張の度合やまた吸気時における外転の度合は正常側声帯のそれとほとんど差異を認めなくなり,さらに,後筋刺激による声帯の外転運動についても全く左右差を認めなくなつた.
  • 平野 実, 小池 祐一, 広瀬 幸矢, 森尾 倫弘
    1973 年 76 巻 11 号 p. 1341-1973_2
    発行日: 1973/11/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    研究目的:声帯は発声中,極めて高頻度の激しい運動を行う振動体である.このような声帯の構造を主として組織学的レベルで検討し,振動体としてみた声帯の特長的構造を解明することを目的とする.
    研究方法:
    1) 正常人声帯10例について,パラフィン包埋切片標本を作製し,各種染色を施して,声帯膜様部中央の構造を組織学的に検討した.特に声帯遊離縁部における粘膜固有層の構造に主眼をおき,弾力線維,膠原線維の分布上の差を検索した.
    2) 人摘出新鮮喉頭3例を用いてVan den Berg類似の装置を使用して吹実験を行い,声帯の振動状態をストロボスコープで観察,写真に記録した.その後同一喉頭の組織標本を作製して,ストロボ所見と組織像との対比を行い,振動部位の検討を行つた.
    研究結果:
    1) 人声帯は組織学的に粘膜上皮,粘膜固有層,声帯筋の3部分から構成される.声帯遊離縁部では上皮は重層扁平上皮から成り,この部の粘膜固有層は,弾力線維および膠原線維の分布の差によつて,浅層,中間層,深層に区別される.上皮直下の浅層は組織そのものが疎であり,中間層は弾力線維が主,深層は膠原線維が主でともに密な組織より成る.各層ともそれぞれの中では,ほぼ均質の構造をなす.固有層浅層と中間層との結合は疎で明確であるが,固有層中間層と深層,固有層深層と声帯筋との結合部は密で互いに入り組んでいる.弾力線維,膠原線維はともに声帯の長軸に対して平行に走る.また,この領域には大きな血管や喉頭腺などの存在を認めない.
    2) 摘出喉頭による吹鳴モデル実験で,ストロボ所見と組織像とを対比してみると,粘膜表面にみられる波動は重層扁平上皮領域内のみに生じる.従つて,振動に最も強く関与する部位は声帯粘膜固有層の中でも,弾力線維の最も密な,いわゆるLig. vocaleのある部位に相当することになる.まはストロボで観察される最大開大位の場合の粘膜側方移動距離は代表的1例では0.8mmであり,組織像での計測で上皮より声帯筋迄の距離1.5mmより小さい.
    3) 以上の2つの研究結果から,声帯の振動に関与する重層扁平上皮領域は組織学的には4層に分けられ,発声時にはこれら全体が一様に動くとは考えにくい.声帯を振動体として物理的にモデル化して考えると,声帯筋を主体とするボディーと上皮および固有層浅層からなるカパーの二重構造が想定され,固有層中間層および深層は両者の移行部と考えてよい.喉頭調節や呼気圧の状態によつては,移行部やボディー迄波動が及びこともあると考えられる.しかし,概て粘膜波動の主役は粘膜固有層浅層であろう.
  • 筋電図学的知見を中心に
    廣瀬 肇
    1973 年 76 巻 11 号 p. 1349-1359
    発行日: 1973/11/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    (i) 研究目的:調音時の鼻咽腔機構を検討することを目的とした.
    (ii) 研究方法:正常成人(米国人3名,スェーデン人1名,日本人1名)を対象として,口蓋帆挙筋,上咽頭収縮筋,口蓋舌筋に,経口的に有鉤針金電極を挿入し,発話時の筋電図を記録した.このデータを電子計算機によつて処理し,各筋の平均的活動パターンを求めて比較した.
    (iii) 研究結果:
    1. 口蓋帆挙筋は鼻咽腔閉鎖を伴う非鼻音性調音に関して,最もprimaryな意義をもつ.
    2. 上咽頭収縮筋および口蓋咽頭筋は,やはり非鼻音性調音に関与しているが,発語時の咽頭腔の大きさを制御する機構にも関与する.
    3. 鼻音性調音は,主として上述した筋の弛緩によつて起るが,口蓋舌筋の関与を示唆する所見も,少数例においてみとめられた.しかし,口蓋舌筋の機能はprimaryには舌の挙上に関与していると推論された.
    4. 非鼻音調音においても,今回検討した筋の活動には,各種の音声学的環境に対応した変動があり,これらの各筋の機能は単純なものでないことが示唆された.
  • 鼻内誘発反応の臨床的意義
    官下 久夫, 石川 哮, 藤田 洋右, 島田 哲男
    1973 年 76 巻 11 号 p. 1360-1367
    発行日: 1973/11/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    目的:鼻アレルギーの診断における誘発反応の臨床的な意義と,その応用について検討した。
    方法:濃度の異なるハウスダスト(HD)及びブタクサ(RW)抗原disc(d.)(抗原濃度31.25γ/d,62.5γ/d,125γ/d,500γ/d,1,000γ/d.)を用いて誘発閾値を求め,皮内反応,P-K反応と共に減感作後の経過を観察した.
    結果:
    1) 鼻アレルギー症状を有する691例中(大人442例,小児249例),対照discで誘発陽性例は,それぞれ49例(11%),及び63例(25%)であった.健常者20例中,HD抗際discで誘発陽性例は無く,RW抗原discで,1例であつた.
    2) 誘発反応の再現性は,58例中50例(86%)に認められた.
    3) 皮内反応,誘発反応共に陽性例中,P-K反応陽性例のしめる割合を診断率とすると,HDで151例中122例(81%)RWで28例中26例(93%)であつた.それらの値は皮内反応のみで診断される割合より,3~6%高い値であつた.
    4) 誘発閾値は,減感作療法開始3ヶ月頃から上昇し,ほぼ症状の改善と一致した.
    5) 特に2月及び3月では,誘発閾値が上昇しても症状が改善されない症例が多くみられた.
    6) 誘発閾値と皮内反応閾値には,相関々係は認められなかつた.
  • 鼻アレルギー患者におけるhouse dustとmit (Dermatophagoides farinae)との抗原性の一致について
    島田 哲男, 石川 哮, 宮下 久夫, 藤田 洋右
    1973 年 76 巻 11 号 p. 1368-1372
    発行日: 1973/11/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    目的:ハウスダスト(=H. D)が発症抗原と考えられる鼻アレルギー患者に,mite (Dermatophagoi-des farinae)抽出抗原を用い,皮内反応,鼻粘膜誘発反応,Prausnitz-KÜstner反応(P-K反応)による比較から,H. Dととの抗原性の一致について検討するのが目的である.
    実験法:
    1. H. D 10-2倍液,mite 10-4倍液を用い,鼻アレルギー患者340名.正常者125名に,皮内反応を行ない,それぞれの陽性率及び両抗原の陽性一致率を検討した.
    2. H. D 10-2倍液,mite 10-3倍液を生理食塩水で稀釈し,10-6倍液まで作製し,両抗原による皮内反応閾値の相関を検討した.
    3. 両抗原とも皮内反応が陽性である患者58名に,抗原濃度の異なる鼻粘膜誘発デイスクを用い,それぞれの抗原による鼻粘膜誘発閾値の相関を検討した.
    4. 両抗原とも皮内反応,鼻粘膜誘発反応が陽性である患者58名の血清を2倍稀釈し,それぞれの抗原でP-K反応を行ない,P-K価の相関を検討した.
    結果:
    1. H. D 10-2倍液による鼻アレルギー患者の皮内反応陽性率は74%であり,mite 10-4倍液による陽性率は76%であった.正常者のH. D 10-2倍液皮内反応陽性率は23%であり,mite 10-4倍液陽性率は25%であつた.以上の事から,鼻アレルギー患者は,正常者に較べ,H. D, mite皮内反応陽性率が極めて高く,又両抗原による皮内反応陽性率に差を認めなかった.
    同一患者で,H. D 10-2倍液,mite 10-4倍液の皮内反応陽性一致率を検討すると,両方とも陽性である者は72%,両方とも陰牲である者は18%であつた.又H. D 10-2倍液に陽性でmite 10-4倍液に陰性である者は4%であり,mite 10-4倍液に陽性で,H. D 10-2倍液に陰性である者は6%であつた.
    2. 同一患者における,H. D皮内反応閾値とmite皮内反応閾値は概ね一致し,miteがH. Dに比べ,約100~10OO倍,抗原としての力価が強い事が推察された.
    3. H. Dによる鼻粘膜誘発閾値は,抗原濃度125μg/disc, 250μg/disc, 500μg/discのdiscで誘発される看多く,miteによる鼻粘膜誘発閾値では,抗原濃度1.25μg/disc, 12.5μg/discのdiscで誘発される者が多かつた.
    4. 同一患者血清の,H. D 10-2倍液,mite 10-4倍液によるP-K価はよく一致し,mite 10-4倍液によるP-K価が,H. D 10-2倍液によるP-K価よりも高い傾向にあつた.
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