日本耳鼻咽喉科学会会報
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122 巻, 3 号
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総説
  • 朝永 博康, 樋口 徹也, 対馬 義人
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 3 号 p. 179-186
    発行日: 2019/03/20
    公開日: 2019/04/06
    ジャーナル フリー

     放射性同位元素 (Radio Isotope: RI) 内用療法は, 人工的に放射性同位元素を付加した薬剤を経口的または経静脈的に投与し, 体内での放射線照射により治療効果をもたらす放射線治療である. 標的とする腫瘍が全身のどこにあっても全体を治療対象とすることが可能であり, さらには治療時にシンチグラフィを撮影することで診断も同時に行うことができるというメリットがあり, Theranostics (diagnosis + therapeutics) という造語でも表現されるものである. 世界的に新薬が次々と研究,開発されており, 日本でも使用可能な核種が少しずつ増えている. 分化型甲状腺癌およびバセドウ病に代表される甲状腺機能亢進症に対する I-131 (ヨード) 治療, 転移性骨腫瘍の疼痛緩和目的の Sr-89 (ストロンチウム) 治療, 再発・難治性悪性リンパ腫に対する Y-90 (イットリウム) 治療, 骨転移を有する去勢抵抗性前立腺癌に対する Ra-223 (ラジウム) 治療が保険診療として使用可能であり, 難治性褐色細胞腫に対する I-131 標識 meta-iodobenzylguanidine (MIBG) も保険適用に向けて臨床試験が進行中である. 日本の放射線治療病室は患者数に対して不足しているが, 診療報酬の低さや治療に携わる人員不足などもあり, 病床数はさらに減少傾向である. 甲状腺癌の I-131 治療が 30mCi までであれば外来で治療可能となったことによって, 治療までの待機期間が短縮はされたが, 放射線治療病室を持たない空白県も複数存在しており, 国民に安定した RI 内用療法の環境を提供できる状況には程遠いものである. 今後新薬も次々と登場してくるであろうが, 治療可能な施設がないと始まらず, 国全体としての枠組みで戦略を考える必要がある.

  • ―第2世代抗ヒスタミン薬を中心に―
    後藤 穣
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 3 号 p. 187-191
    発行日: 2019/03/20
    公開日: 2019/04/06
    ジャーナル フリー

     アレルギー性鼻炎・花粉症の治療は患者とのコミュニケーションを重視しながら, 抗原除去・回避, 薬物療法, 手術療法, アレルゲン免疫療法の4つの柱がある.

     2011年5月にわれわれが実施した1,000人規模のインターネット調査によれば, 花粉症治療を行っている内科, 耳鼻科, 小児科の医師においては治療の中心になる薬剤は第2世代抗ヒスタミン薬であることが分かった. すべての診療科で96%以上の医師が処方しており, まさにゴールデンスタンダードである. 診療ガイドラインでは軽症から最重症までのどの重症度に対しても第2世代抗ヒスタミン薬を推奨している. つまり, Ⅰ型アレルギー疾患の典型であるアレルギー性鼻炎ではヒスタミンが病態形成に最も重要であるといっても過言ではなく, 抗ヒスタミン薬の使い方がアレルギー性鼻炎・花粉症治療の重要なポイントになってくる.

     スギ花粉症の薬物療法において, 特徴的なのは初期療法である. 花粉飛散開始のタイミングを考慮して症状が悪化する前から薬物療法を開始する方法で, 重症度の高い患者に特に効果がある. 現代の第2世代抗ヒスタミン薬は即効性が証明されており, 症状が少し出たタイミングで投与開始しても効果が期待できる. 花粉飛散ピーク時に症状が悪化した場合には, 抗ヒスタミン薬の増量や種類変更を考慮するよりもその時の病型や重症度に応じてほかの治療薬を併用することが効果的である.

     海外のガイドラインでの推奨順位と異なるが, わが国では第2世代抗ヒスタミン薬をベース薬と捉え鼻噴霧用ステロイド薬を併用するのが最も多い処方例である. 初期治療による重症化対策を行いながら, 併用療法によって重症度に応じた治療を行うことが, 患者満足度の向上を目指した花粉症治療には重要である.

  • 湯浅 有
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 3 号 p. 192-195
    発行日: 2019/03/20
    公開日: 2019/04/06
    ジャーナル フリー

     耳科領域においては, 日帰りや短期滞在での手術に適応のある疾患が多い. 欧米では耳科手術の多くが日帰りの対象となるが, 術後のめまいや出血等により入院を余儀なくされる症例も数%の割合で存在する. 欧米では日帰り手術の多くが総合病院に併設された日帰り専門の手術センターにて行われるため, 術後に予期せぬ入院が必要になっても, 迅速に対応できるシステムが確立されている. しかし日本では術後問題に対応できるシステムは確立されておらず, 各施設で独自に対応しているのが現状である. 耳科領域において手術に関与する術後問題のほとんどは術当日に発生する出血とめまいである. このため, 術当日から翌日にかけ入院できればほとんどの問題に対応できるが, 入院施設を有しない診療所で日帰り手術をする際には, 患者医師間の連絡方法の確立と後方支援病院の確保が必須となる. 術後の問題発生割合を考慮した場合, 外耳道皮膚切開や鼓室内操作を必要とする手術に対しては, 入院での施行がより安全であると考えられる. また, 耳鼻咽喉科単科診療所での手術においては, 他科領域の全身疾患合併症, 特に循環器疾患が問題となる. 不整脈や虚血性心疾患は致死的な状態に陥る可能性を否定できず, これら疾患の術中もしくは周術期の発症に対して迅速に対応する知識や体制を整備する必要がある.

  • 伊藤 真人
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 3 号 p. 196-201
    発行日: 2019/03/20
    公開日: 2019/04/06
    ジャーナル フリー

     小児滲出性中耳炎と急性中耳炎は, 鼓膜所見だけでは区別が難しいこともあり, 耳痛や発熱などの急性症状出現後48時間以内に受診した場合は急性中耳炎と診断される. また急性中耳炎を繰り返す反復性中耳炎の寛解期には, 滲出性中耳炎と診断される場合もあり, 中耳貯留液を認める状態が寛解せずに活動性の急性中耳炎が再燃する症例も散見される. このように, 小児急性中耳炎と小児滲出性中耳炎とは相互に移行する関係にあり, その境界を厳密に分けることが難しいばかりではなく, 鼓膜チューブ留置術などの治療選択においても, どちらか片方の疾患だけを念頭において治療を決定できるものではない. すなわち治療を考える上では,「慢性中耳炎以外の小児中耳炎」として, 急性中耳炎と滲出性中耳炎という, 移行する疾患群の全体像を俯瞰する必要がある.

     外科治療 (主として鼓膜チューブ留置術) の適応決定のために, 病院・診療所を問わずすべての耳鼻咽喉科専門医に求められることは, 正確な鼓膜所見の評価とおおよその聴力域値を推定することであり, 必要な症例を選別して精密聴力検査や手術管理が可能な施設に紹介すべきである. 難治性急性中耳炎には遷延性中耳炎と反復性中耳炎があるが, このうち寛解期にも中耳貯留液 (MEE) を認めるタイプの反復性中耳炎は鼓膜チューブ留置術の適応ともなる.

     言語・構音障害がみられる場合など, 難聴による症状を有する症例や難治症例 (At-risk children) においては, より積極的な鼓膜チューブ留置術が勧められる.

  • 丹生 健一, 中溝 宗永, 吉本 世一, 土井 麻理子, 岡田 昌史
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 3 号 p. 202-203
    発行日: 2019/03/20
    公開日: 2019/04/06
    ジャーナル フリー

     日本頭頸部癌学会が運営している悪性腫瘍登録事業を整備し, 関連学会・研究会の協力を得てオールジャパン体制でビッグ・データを活用できる体制を構築した. 無作為化介入試験が困難な機能温存手術, 臓器・機能温存治療, 機能再建手術等について, 全国症例登録システムを活用した非介入後方視的観察研究を行い, 頭頸部癌の診療ガイドラインの根拠となるわが国発のエビデンスを創出し, 個々の症例に対して生命維持と社会生活に必須の臓器と機能の温存を目指した治療, 根治と QOL の両立を目指した最適な治療を提供するためのガイドラインを作成する体制が整った.

  • 森田 由香
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 3 号 p. 204-208
    発行日: 2019/03/20
    公開日: 2019/04/06
    ジャーナル フリー

     近年, 女性医師の数は徐々に増加し, 20年前で約20%前後, 現在では30%は下らない状況となっており, 女性医師なくして医療界は成り立たないといっても過言ではない. 男性であれ女性であれ,医師免許を取得した以上は, 何らかの形で社会貢献する義務を負っている. そのため, 女性医師が, ライフイベントのために社会復帰を望んでもできないという状況は改善し, 男性にも女性にも優しい組織づくりを, 職場だけでなく, 学会, 社会全体で構築する必要がある.

     女性医師がライフイベントに直面しても, 何らかの形でキャリアを継続し, その後も活躍できるようにするためには, 支援制度や周囲の理解とともに本人のモチベーションが重要である. モチベーションは本人の問題でもあるが, これを維持できるような指導も必要である. 得意分野をつくる, 物理的に仕事を制限する必要がある際も質は落とさないなどで仕事に対するモチベーションは維持できると考えられる. そのため, このような視点から指導することは, 指導医の務めでもある. 幸いサブスペシャリティが多い耳鼻咽喉科頭頸部外科では実践しやすいのではないかと考える.

     近年は, さまざまな支援制度は整ってきているので, 女性医師が十分にその力を発揮できるように, 制度を有効利用できるような環境を整えていく必要がある. 実践するには, 当事者である女性医師だけでなく, その上司, 同僚など職場でかかわるすべてのスタッフが医師のキャリア形成は生涯続くという共通の認識を持たなければならない. そして, 各個人の生活スタイル, 技量にあわせ, 多様性に応じた指導が必要である. このような環境が整い, モチベーションが維持できれば, 自身の成長を実感することにより, 楽しみながらキャリア形成ができ, 勤務を継続できると考えられる.

原著
  • 山本 哲夫, 朝倉 光司, 白崎 英明, 亀倉 隆太, 氷見 徹夫
    原稿種別: 原著
    2019 年 122 巻 3 号 p. 209-215
    発行日: 2019/03/20
    公開日: 2019/04/06
    ジャーナル フリー

     シラカバ花粉症に伴う口腔アレルギー症候群 (OAS) の交差抗原は, シラカバの主要抗原の Bet v 1 と, シラカバのプロフィリンである Bet v 2 が挙げられる. 一方, ヨモギやイネ科花粉もプロフィリンを介してメロンやスイカなどの OAS の原因となり, 軽症例が多い Bet v 1 関連の OAS と異なり, 重症例があると言われる. 今回, 各種花粉感作と Bet v 2 感作との関係を調べた. なお, プロフィリンは植物間の相同性が高く, Bet v 2 を指標とした. 対象はシラカバ花粉 IgE が陽性の口腔咽頭過敏症429例である. シラカバ, カモガヤ, ヨモギ, ダニと Bet v 2 の IgE を ImmunoCAP (以下CAP) で検査した. Bet v 2 CAP の陽性率 (クラス1以上) は全体では14.0%であったが, シラカバ単独感作例では5.3%であり, カモガヤ, ヨモギ CAP ともクラス0では1.6%と低く, ヨモギ, カモガヤ花粉感作合併とともに増加した. 性別, 年齢階層と4種の CAP クラスで調整したロジスティック回帰分析では, Bet v 2 CA P陽性には, ヨモギ感作合併の影響が最も強く(オッズ比2.16 p<0.0001). 次にカモガヤ (オッズ比1.25 p=0.025) であった. プロフィリンに対する感作は, シラカバ花粉感作の影響は少なく, ヨモギ花粉感作の影響が最も強く, 次にイネ科であった.

  • 櫛橋 幸民, 池田 賢一郎, 江川 峻哉, 平野 康次郎, 洲崎 勲夫, 水吉 朋美, 北嶋 達也, 安藤 いづみ, 小林 一女, 嶋根 ...
    原稿種別: 手技・工夫
    2019 年 122 巻 3 号 p. 216-224
    発行日: 2019/03/20
    公開日: 2019/04/06
    ジャーナル フリー

     陰圧閉鎖療法 (Negative pressure wound therapy: 以下 NPWT) は創傷表面を密閉し湿潤環境を保った状態で内部を持続吸引し創傷治癒を促進させる治療法である. 2014年10月~2017年11月までの約3年間で頭頸部癌術後に NPWT を6例に対し施行した. 年齢は39~75歳で平均年齢は63.0歳, 中央値は66.0歳であった. 男女比は4:2で原疾患は舌癌が4例, 下顎歯肉癌と原発不明癌がそれぞれ1例ずつであった. 頭頸部はその解剖学的な複雑さ故に NPWT を装着する際に工夫が必要であるが6例全例で良好な創傷治癒が得られた. 当センターで施行した6例を提示し文献的考察を加え報告する.

  • 吉田 尚生, 田中 信三, 平塚 康之, 渡邉 佳紀, 山崎 博司, 草野 純子, 森田 勲, 松永 桃子, 北野 正之, 山口 智也
    原稿種別: 手技・工夫
    2019 年 122 巻 3 号 p. 225-229
    発行日: 2019/03/20
    公開日: 2019/04/06
    ジャーナル フリー

     経頸部的なルビエールリンパ節郭清の術後には嚥下障害を来すことが多い. 原因は迷走神経から分岐する咽頭神経叢の障害と推定されたので, 同神経叢を温存するルビエールリンパ節郭清術を考案した. 方法は顎下部皮膚を切開し顎二腹筋後腹と茎突舌骨筋を切離して舌下神経を同定する. 舌下神経と迷走神経の接合部付近に迷走神経咽頭枝があり神経刺激装置を用いて咽頭神経叢を同定する. ルビエールリンパ節の摘出は視野が狭く, 硬性内視鏡補助下に行う. 甲状腺乳頭癌のルビエールリンパ節転移を認めた2症例に前述の術式を行い良好な結果を得た. ルビエールリンパ節郭清では咽頭神経叢の温存で嚥下障害を予防できることが示唆された.

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