日本耳鼻咽喉科学会会報
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76 巻, 7 号
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  • 杉山 茂夫, 玉置 弘光, 中島 礼士
    1973 年 76 巻 7 号 p. 829-832
    発行日: 1973/07/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    末梢性の顔面神経麻痺は我々が日常遭遇するごく普通の疾患である.しかし,その麻痺が両側にわたる場合や,同側で2度以上反覆する場合は稀有のことである.最近,我々は2年の間隔をおいて左右の末梢性顔面神経麻痺を起した症例を経験した.さらにその弟が5年の間隔で左側の末梢性顔面神経麻痺に2度罹患していることがわかつた.しかも両者は2度の麻痺とも完全治癒しており,このような症例はきわめて稀らしいと思われるので,その概要を報告諾干の考察を加えた.
    両側性の末梢性顔面神経麻痺の発生頻度を文献的に考察したが,全症例の約2%と思われる。しかし,同側で麻痺が反復する再発性麻痺については明らかでなかつた.従来,顔面神経麻痺の誘因あるいは素因の一つに糖尿病が挙げられている.統計的には密接な関係が見られないが,本症例は両親と同胞3人が全員糖尿病に罹患しており,糖尿病が家族発生に何等かの役割を果しているように思われた.
    糖尿病は副腎皮質ホルモン禁忌の疾患とされているが,本症例では血糖に注意しながら使用した.しかし,顔面神経麻痺罹患以前の患者の血糖値と大差なく,本症例では特に影響はなかつたものと思われる.これを説明するために,糖尿病の病態,糖尿病えの副腎皮質ホルモンの影響等について考察した.
  • 特に術式と乳突洞粘膜病型分類に関する考察
    馬場 廣太郎
    1973 年 76 巻 7 号 p. 833-841
    発行日: 1973/07/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    鼓室戒形術の術後成績について,術式及び乳突洞粘膜病型の分類という二つの面から検討した.この場合の術後成績判定には,客観性を持たせるため,点数制を採用し,臨床的経過観察と術前聴力を無視した術後聴力のそれぞれを,0点から3点までの4段階に分け,双方の和をもつて,その症例の術後成績とした.
    先ず,術式についてであるが,施行した術式を,古典的術式,外耳道保存手術,乳突形成術のうちMuscleを使用したもの.さらにKiel Bone Graftを用いたものの4型に分類し,夫々を上記術後成績判定法によつて,成績を検討した.古典的術式では多少悪い成績であるが,他の3術式ではほぼ同様の結果を得た.
    又,術式の分類法をtechniqueの面,すなわちapproachの方法から,経乳突手術 経外耳道手術,両者併用手術,外耳道後壁除去手術,外耳道後壁除去及び乳突充填手術,外耳道再建手術の6型に分類し,現在まで文献上に発表されてる多くの術式を,この分類法にあてはめてみるという考察を行なつた.
    次に,乳突洞粘膜の病理組織学的所見から粘膜病変を,a浮腫型,b細胞浸潤型,c線維型,d小嚢胞形成型,eコレステリン肉芽腫型,f真珠腫型の6つの病型に分類し,術後成績について検討した.b細胞浸潤型では成績が悪く,特に乳突形成術を行なつた例では,不良例が多かつた.又,これまで術後不良例が多いとされているd小嚢胞形成型,eコレステリン肉芽腫型は比較的良い成績であつた.これら術後成績の検討から,病巣を完全に除去でき得れば,良い成績が得られること,及び慢性中耳炎の急性増悪期等の活動性病変のある時期に手術を行なう事は慎重であるべきであるという結論を得た.
    慢性中耳炎に関する手術方法及び粘膜病型の分類は,現在の所,確立されたものがないので,これらに対する著者の試みに,文献的考察を加えて,ここに報告した.
  • 飯泉 修, 北村 武, 金子 敏郎, 神田 敬, 内藤 準哉, 結束 温, 内田 邦明
    1973 年 76 巻 7 号 p. 842-849
    発行日: 1973/07/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    1) 目的:嗅覚閾値が気流の変化による条件(鼻腔形態の変化による気流の変化),空気力学的な条件(流星,吸気圧)によつて如何に変化するかを検討し,他覚的嗅覚検査法を施行する際の前提条件を決めるべく実験をおこなつた.
    2) 実験方法:鼻内気流の主流が総鼻道及び嗅裂部に向う場合を想定し,内径2mm,外径4mm,長さ5cmのテフロン•;チューブを総鼻道及び嗅裂入口部に挿入し,sniff methodによる嗅覚検査をおこなつた.その際,テフロン•;チューブの外側間隙を両鼻翼ではさみつげ,余分の空気が入らぬようにし,ビニール管でelectronic manometerに接続し,このテフロン•;チューブの持つ条件内での吸気圧を記録し,嗅覚閾値との関係を検討した.又,嗅裂部に気流の乱れを人工的に作るために,テフロン•;チューブと共に,嗅裂入口部に内径1mmのビニール•;チューブを挿入し,嗅素の吸い込みと同時に注射器でもつて空気を送り込み,乱流を生ぜしめたときに起る嗅覚閾値の変化について検討した.又,鼻腔粘膜表面のpH,鼻腔内温度,湿度を測定し嗅覚閾値との関係を検討した.
    3) 結果:
    a) 嗅素は高濃度の方が低濃度の場合よりも低い吸気圧で閾値レベルに達する.
    b) テフロン•チューブを総鼻道に挿入した場合よりも,嗅裂入口部に挿入した方が低い吸気圧で閾値レベルに達する.したがつて,鼻内形態のために鼻内気流が主として下部にある場合と上部にある場合とでは,嗅覚閾値が変化を生じてくると考えられる.
    c) 閾値附近では短時間の吸い込みの場合嗅覚無反応でも,比較的長時間吸い込みをさせると反応する場合がある.従つて,閾値附近では,吸い込み時間の長短が嗅覚閾値に影響を与える場合がある.
    d) 嗅裂入口部に乱流を生ぜしめると閾値の上昇が認められた.このことから,鼻腔に形熊変化があり嗅裂部に乱流が生ずれば閾値に変化が生じると考えられる.
    e) 正常鼻に於ては,鼻腔粘膜表面のpH,鼻強内温度,湿度などは,特別な条件が附加されない限り,嗅覚閾値に大きな影響を及ぼさないものと考えられる.以上の如く主として得た結論は鼻内の形態変化,及びその結果として起る鼻内気流の変化が,嗅覚閾値に影響を及ぼすということ,及び閾値附近では吸い込み時間の長短によつて閾値が変つてくるということである.
  • critical point乾燥法の応用
    神田 敬
    1973 年 76 巻 7 号 p. 850-852_4
    発行日: 1973/07/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    人間及びモルモットの鼻粘膜線毛上皮を走査型電子顕微鏡を用いて観察した.
    摘出せる組織片は生理食塩水に充分に洗浄し,5% glutaraldehydeで前固定し,cacodylate bufferの中に移し,頻回に旦つて洗浄し,2% osmium tetroxideで後固定を行つた.更にethanolで型通りに脱水し,amylecetaTeに置換し,critical post法を用いて総織を乾燥させた.乾燥した試料はgoldとcarbonで真空蒸着し,日本電子製JSM-SI型走査型電子顕微鏡を用いて観察した.
    モルモットの鼻粘膜では線毛群は縞目状の配列をなし,協調性をもつた波状運動をしめしている.人間の鼻粘膜ではモルモットに比較して線毛は密であるが,線毛は隣接の線毛と癒合することなく,互いに協調性のある運動を行つている,人間の鼻粘膜の粘液層は顕著で除去しにくいが,生理食塩水及び緩衝液による頻回の洗浄によつて可成りの程度に除去することができる.
  • とくに進行性鼻壊疸(壊疸性鼻炎)との関連性について
    渡部 泰夫, 里見 真美子, 佐野 光仁, 小塚田 誉志夫, 内藤 儁, 田代 実, 今泉 昌利
    1973 年 76 巻 7 号 p. 853-864
    発行日: 1973/07/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    鼻,口蓋の壊死性変化を伴なつた鼻細網肉腫3症例を報告した.
    症例(1) 45才♂.1971年12月下旬に鼻閉をきたす.1972年2月より発熱(38.0°C),全身倦怠感,皮膚の結節性紅斑が現われた.発症5ヵ月後全身衰弱で死亡した.剖検所見は細網肉腫であり扁挑,声帯,皮膚,肝,腎,脾,肺,膵,甲状腺等,多くの臓器への異型細網細胞の浸潤を認めた.明瞭な腫瘤を形成していたのは腎,皮膚のみであつた.
    症例(2) 23才♀.1970年12月より鼻閉あり,鼻腔所見,赤沈値亢進,発熱,異常免疫所見などよりWegener肉芽腫が疑われたが口蓋の組織所見より細網肉腫と診断された.心嚢への転移による肺水腫のため1972年9月に死亡した.
    症例(3) 52才♂.数年来め鼻閉あり,1971年1月より左鼻翼の腫脹をきたし,鼻細網肉腫が疑われたが観織所見は壊死性変化と炎症性変化であつた.1972年8月鼻中隔の右側の肉芽様病変の組織検査で細網肉腫と診断さ乳た.全身性の転移はいまだ認めない.
    鼻細網肉腫には広義の進行性鼻壊疽の中に含まれる鼻腔,口蓋の壊死性肉芽性変化を伴なう症例がある.組織検査で腫瘍と診断され難い細網肉腫である.これは進行性鼻壊疽と診断され易い.この様な鼻細網肉腫の特徴は次の様に思われる.
    (1) 鼻膜性細網肉腫の中には組織検査で腫瘍と診断し難い症例がある.この様な症例は壊死性肉芽性変化が表面に現われ腫瘍を形成しない症例で,いわゆる狭義の進行性鼻壊疽と間違われ易い.
    (2) 発病は炎症症状で始まること炉多い.この様に炎症がつよいとき検査成績も赤沈値の亢進,IgおよびIgGの増加,CRPおよびRAの陽性化,血清補体価の上昇,発熱など,Wegener肉芽腫など非腫瘍性疾患と類似の変化を示す..
    (3) 転移は他のリンパ性細網肉腫と違つて少ない.転移する場合も腫瘤を形成するより白血病の際にみられる浸潤に似ている..
  • 治験例と文献的考察
    三吉 康郎, 大山 勝, 新山 宏二, 鵜飼 幸太郎, 荘司 邦夫
    1973 年 76 巻 7 号 p. 865-871
    発行日: 1973/07/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    上顎に原発せる血管内皮肉腫(血管肉腫)の一治験例を報告した.
    症例は,36才,女子で,昭和41年8月,鼻出血を主訴として某耳鼻科医の紹介により当科を受診した.臨床諸検査成績から,上顎悪性腫瘍をい,洞試験開放を試みたが,肉眼的ならびに病理組織学的検索の結果,悪性腫瘍は否定され,臨床的に一応,血瘤腫と診断した.退院後約6ヶ月,再び頻回多量の鼻出血と頬部の無痛性腫脹を来し,再入院した.
    下鼻道腫瘤の試切で,"悪性腫瘍様の肉腫"との診断をえたので,全麻下に上顎部分切除を施行した.腫瘤は鶏卵大,被膜を有し,上顎洞前壁,側壁,内壁に拡展していたが,眼窩ならびに洞底への浸潤はみられなかつた.
    周囲組織より腫瘤を丹念に切離し,下鼻甲介を含めてen blccに摘出しえた.術後,60Co針(5mci)4本を洞内に挿入し,総量3,000rad,次いでTele60Coを25日間に総量5,000rad追加照射した.その後,経過は順調で,術後60日目に退院,6年有余の現在,何ら再発の兆候はみられず,元気に社会生活へ復帰している.
    病理組織学的には,多角形ないしは紡垂形の大型,淡明な腫瘍細胞が,網状に吻合し,場所によつては索状構造をとりながら,狭い管腔を形成する像がみられた.鍍銀像では,嗜銀線維が密に存在し,明らかな管状構造をみること等から,血管内皮細胞に由来する腫瘍,すなわちangioblastic patternを混じた血管内皮肉腫と診断した.
    悪性の血管系腫瘍は,組織形態が極めて多彩で,かつ変化に富むことから,組織発生の起源や組織像の解釈をめぐり議論の多い腫瘍である.内外文献を概観,整理し,本腫瘍に関する組織分類上の地位,命名について,我々の見解を述べた.
    上顎に原発せる血管内皮肉腫は,極めて稀である.当教室過去16年間の上顎悪性腫瘍151例の組織別発生頻度は,癌腫134例(88.6%),肉腫7例(4.8%)であつたが,その中,血管内皮肉腫は1例であつた.一方,上顎に発生した本腫瘍は,我々が本邦文献を捗猟した限りでは,僅かに10例を算するに過ぎない.これら症例を中心に,臨床症状,診断,治療法,予後等について,若干の考察を加えた.
  • 小林 照尚
    1973 年 76 巻 7 号 p. 872-890
    発行日: 1973/07/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    目的:鼻咽腔炎と自律神経系との関連については,我々の教室で幾多の報告がなされており,鼻咽腔炎と指尖容積脈波との関係はすでに報告されている.しかし今回著者は更に太い血管(浅側頭動脈)での変化を知る目的と,更に指尖容積脈波および浅側頭動脈々波を測定し,その基線の変化ならびに振巾の時間的変動より,鼻咽腔炎患者における血管運動中枢を含む自律神経系の調節機構の破綻を解明しようとしたものである。
    実験法:両手指第III指に指尖容積脈波,浅側頭動脈上に反射光電式容積脈波を置き,両者を同時に描記させ,鼻咽腔刺激前後の脈波を基線の変化,振巾の時間的変動を測定した.また鼻咽腔刺激前後の血圧の変動も合せて測定した.
    結論:
    1) 正常者の振巾変動時間は30秒以内で刺激前の状態に戻る.
    2) 鼻咽腔炎患者の刺激後振巾変動時間は指尖容積脈波,浅側頭動脈々波ともに延長する.その振巾の回復過程より,両者ともに4型に分類出来るが,両者の間に有意な関連は認められない.
    3) 鼻咽腔炎の消褪とともに振巾時間の短縮が認められ,振巾変動の型も正常のものに類似していく.
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