日本耳鼻咽喉科学会会報
Online ISSN : 1883-0854
Print ISSN : 0030-6622
ISSN-L : 0030-6622
111 巻, 3 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
総説
  • —静脈性嗅覚検査の見直しと新しい点鼻治療法について—
    井之口 昭, 中島 俊之, 宮崎 純二
    2008 年 111 巻 3 号 p. 87-90
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/06/03
    ジャーナル フリー
    嗅覚障害の診断には従来より静脈性嗅覚検査が用いられてきた. 検査は肘静脈から一定の手技で行うため, 再現性のある一定の匂い刺激になっていると考えられてきた. しかし, 実際に匂い強度を連続的に測定してみると必ずしも一定の匂い刺激ではなかった. 現在の実施方法では, 70%の例では匂い強度が1回だけピークを形成するパターンをとり, 残りの30%の例では複数回の強度ピークを形成することがわかった. そこで一定かつ再現性のある匂い刺激を模索するために注射液の量や注入時間を変化させて最適の注入方法を検討した. すると, アリナミン原液2mlを生理食塩水10mlに希釈し, 全体で12mlの液を40秒かけて注射する方法が全例で1回ピークパターンをとり, 最適の方法であることが判明した. 自覚的な匂い強度もガスセンサで測定した他覚的な匂い強度も原法とほぼ同じであった. 新注射法のもう1つのメリットとして血管痛の副作用が全くないことが挙げられる. アリナミン原液の強酸性が生理食塩水で薄められたためと思われる.
    嗅覚障害の治療にはステロイド点鼻療法が推奨されてきたが, その投薬コンプライアンスについてはほとんど関心をもたれてこなかった. 特に老人や頸椎疾患患者では懸垂頭位をとることは不可能である. そこで安楽かつ簡便に行える点鼻頭位を検討するため, 屍体頭部をさまざまな角度に倒立させて点鼻液が鼻内のどの部位に到達するか実験を行った. すると懸垂頭位では後屈角を90度ないし100度にしないと嗅裂に点鼻液が到達しないことがわかった. 懸垂頭位で点鼻を行う場合は鼻橋に沿って点鼻すれば後屈角80度でも嗅部に液が到達することもわかった. より患者に負担が少なく, 確実に嗅裂に点鼻液が到達する姿勢として枕なし側臥位を考案した. この頭位・姿勢で点鼻することにより簡便・安楽に投薬コンプライアンスを良好に保つことができた. 嗅覚障害治療にあたっては詳細に点鼻姿勢を指導することが重要である.
原著
  • 田村 悦代, 福田 宏之, 楠山 敏行, 岡田 信也, 飯田 政弘
    2008 年 111 巻 3 号 p. 91-95
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/06/03
    ジャーナル フリー
    声門閉鎖不全疾患に対する声帯内注入術に自家脂肪が用いられるようになってきた. 従来, 用いられる脂肪組織は, 主に下腹部より採取されてきた. しかし, 下腹部の脂肪組織量は個人差が大きく, 十分量の脂肪組織の採取が困難なことがある. そこで, 形成外科で用いられる頬部脂肪体 (Buccal Fat Pad) を用いる方法を試みたので, その方法および術後の経過を報告した.
    2005年1月から2005年12月までの一年間に, 頬部脂肪体を用いた声帯内脂肪注入術を施行し, 術後6カ月以上経過観察することができた10例を対象とした.
    1例を除いて, 術後, 脂肪採取部位や声帯に腫脹, 感染などの合併症を認めなかった. 注入後の音声は著明に改善し, 観察期間中持続した.
    頬部脂肪体を利用した声帯内自家脂肪注入術を行い, その有用性を確認した.
  • 森田 真也, 古田 康, 本間 明宏, 鈴木 章之, 藤田 香, 福田 諭
    2008 年 111 巻 3 号 p. 96-101
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/06/03
    ジャーナル フリー
    頸動脈小体腫瘍は, 頸動脈分岐部に発生する比較的まれな腫瘍であり, 手術においては出血のコントロールおよび術後神経障害が問題となる. それゆえ, 術前の栄養血管塞栓術が有用と報告されている. 今回, 頸動脈小体腫瘍手術症例において, 術前栄養血管塞栓術の有効性および術後合併症の検討を行ったので報告する.
    1990年から2005年までに, 当科にて頸動脈小体腫瘍と診断され手術を施行した6例7側を対象とした. 術前診断としてCT, MRI, 超音波検査, 血管造影検査を行った. 4例5側に術前栄養血管塞栓術を施行した.
    栄養血管塞栓術施行4例5側では, 術中出血量が平均291mlで, 手術時間が平均4時間55分であった. 非施行2例では, 術中出血量が平均1016mlで, 手術時間が平均10時間17分であった. 脳神経障害を認めた例は一過性も含めると, 舌咽神経麻痺1例, 迷走神経麻痺2例, 舌下神経麻痺4例5側であった. 栄養血管塞栓術施行例では, 術後脳神経障害が出現しても一過性であり, 短期間で改善する傾向がみられた. 両側切除例においてbaroreflex failure syndromeを認めた.
    栄養血管塞栓術施行例では, 非施行例と比較して術中出血量が少なくなり, 手術時間が短縮する傾向が見られた. また, 術後脳神経障害の程度が軽度であった.
専門講座
feedback
Top