日本耳鼻咽喉科学会会報
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116 巻, 12 号
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
総説
  • ―出生前診断―
    臼井 規朗
    2013 年 116 巻 12 号 p. 1273-1281
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2014/02/22
    ジャーナル フリー
    先天奇形による外科疾患を出生前に診断することは, 周産期管理や出生後早期からの治療を行う上で有用であるだけでなく, 胎児治療を行う上でも必要不可欠である.
    トリソミーなどの染色体異常のスクリーニングには, 母体血清マーカー検査, 母体血中細胞フリー胎児DNA検査, 超音波ソフトマーカー検査などが用いられる. しかし, これらはあくまで非確定的な検査であり, 確定診断には羊水穿刺や絨毛採取, 臍帯穿刺などで得た胎児細胞の染色体検査を行う必要がある. また, これらの遺伝学的検査は遺伝カウンセリングを十分行い, インフォームド・コンセントを得た上で行わなければならない.
    出生前画像診断は, 主として胎児超音波検査や胎児MRI検査によって行われる. 特に胎児超音波検査は, 胎児の数と妊娠週数の決定や, 胎児発育の評価, 胎児well-beingの評価, 羊水量の評価, 胎児スクリーニングなど, 幅広い目的で用いられている.
    本稿では, 胎児超音波検査で出生前診断が可能なさまざまな先天性疾患について, 中枢神経系疾患, 頭頸部の疾患, 上気道・呼吸器系の疾患, 心・大血管系疾患, 消化器系疾患, 四肢・骨格の疾患など部位別に分けて, 胎児治療の知識も交えて解説する.
  • 肥塚 泉
    2013 年 116 巻 12 号 p. 1282-1289
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2014/02/22
    ジャーナル フリー
    めまいの診断に当たっては, 中枢性めまいと末梢性めまいの正確かつ迅速な鑑別が必要となる. 中枢性の原因で最も重要かつ見逃してはならないのは脳卒中 (脳梗塞・脳出血) である. めまいを来す脳卒中は, 脳幹または小脳の梗塞か出血である. 脳幹障害の場合は運動障害や感覚障害, 眼球運動障害などの多彩な神経症候を来す. 一方, 小脳障害の場合は麻痺や感覚障害は来さない. 小脳上部の障害では構音障害や四肢の運動失調, 小脳下部の障害では構音障害や四肢の運動失調は来さず, 小脳虫部の障害による起立・歩行障害が唯一の鑑別点となる.
    めまい急性期は, 前庭自律神経反射に伴う悪心や嘔吐などの不快な症状が生じることが多く, これらに対する早期の対応も必要となる. 抗めまい薬の投与などの対症療法によって, 患者の苦痛を軽減することが重要である. 急性期以降は, 良性発作性頭位めまい症に対しては浮遊耳石置換法を行う. メニエール病に対してはイソソルビドの内服療法を行う. イソソルビドの, 聴覚症状に対する長期成績については有効率が低いとする報告が多いので, 使用に当たってはこれに留意する. メニエール病の発症・増悪に, ストレスが深くかかわっている可能性が指摘されている. 心身ともにリフレッシュしストレスを解消するなど, 生活習慣を改善することが有用である. めまい・平衡障害の程度が強い症例に対しては, めまいリハビリテーションが有用である.
  • 松浦 一登
    2013 年 116 巻 12 号 p. 1290-1299
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2014/02/22
    ジャーナル フリー
    がん治療の究極の夢は「薬」で病が治ることである. 効果を得るために治療強度を増すことはしばしば行われるが, 副作用も強くなるというジレンマがある. 近年, 分子標的薬剤など新しい創薬がなされ, 治療効果とともに新たな副作用が認められてきた. 大多数の頭頸部がん患者は, 外科治療を主とする耳鼻咽喉・頭頸部外科医によって治療がなされており, われわれは多様な有害事象をマネジメントしつつ, 標準治療を理解して完遂しなければならない. 元来は兵器であったという生い立ちを忘れて抗がん剤を用いることは, 「角を矯めて牛を殺す」になりかねず, 不必要な抗がん剤使用を避けることが何よりの有害事象対策となる.
    現在, われわれが最も多く用いる抗がん剤はシスプラチンであるが, 代表的な副作用は, 腎障害と悪心・嘔吐である. 腎障害は尿細管障害が主体であり, 大量補液と利尿剤で軽減を図るが, NSAIDsを避けることやMgの補充を行うことも重要である. 悪心・嘔吐対策は, 初回からアプレピタント, ステロイド, 5-HT3拮抗剤を用いて十分な対応をとり, 患者に我慢させないことが大切である. 近年, 化学療法施行時のB型肝炎再活性化が問題となっており, ハイリスク患者には抗ウイルス薬 (エンテカビル) の予防投与が推奨されている.
    また, 頭頸部がんに対する分子標的薬剤 (セツキシマブ) が保険収載されたことにより, 本剤の使用が始まった. シスプラチンに比べて, 補液の管理や嘔気・嘔吐管理が格段に簡便になる反面, インフュージョンリアクションや間質性肺炎など致死的な症状が生じることがあり, われわれもこの薬剤に対する理解を深めなければならない.
    現在の頭頸部がん治療では多職種でのチーム医療が必要不可欠であり, 抗がん剤の有害事象をマネジメントするにも, 担当医一人では十分な対応はできない. 看護師を含む医療従事者にも知識の共有と教育を繰り返し行い, チーム力の向上を図ることが何よりも重要である.
原著
  • 井口 広義, 和田 匡史, 山本 秀文, 山田 佳, 松下 直樹, 岡本 幸美, 寺西 裕一, 神田 裕樹, 小杉 祐季, 山根 英雄
    2013 年 116 巻 12 号 p. 1300-1307
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2014/02/22
    ジャーナル フリー
    副耳下腺に発生する腫瘍は比較的まれで, 一施設では症例数に限りがあるため十分な臨床的検討は困難である. そこで, われわれが近年経験した副耳下腺腫瘍の4例を含め, 本邦における副耳下腺腫瘍に関する報告例を合わせた65例 (男性29例, 女性36例; 年齢9歳から81歳: 中央値51歳) について臨床的検討を行った.
    治療は約半数が耳鼻咽喉科で行われていたが, 形成外科, 歯科口腔外科, 皮膚科でも行われていた. 術前穿刺吸引細胞診 (施行率33.3%) が良性にもかかわらず, 術後病理組織が悪性であったものが4例 (うち3例は粘表皮癌) あった. 術後病理組織は悪性腫瘍29例 (44.6%), 良性腫瘍36例 (55.4%) で, 悪性腫瘍では粘表皮癌が, 良性腫瘍では多形腺腫が最多であった. 本邦においては副耳下腺腫瘍へのアプローチはS状切開が最も良いとする文献が多いが, 他のアプローチも含め, それぞれの長所と短所を把握した上で選択する必要がある. 副耳下腺悪性腫瘍に対する頸部郭清術および術後照射の必要性に関しては議論がある. 文献的には, 腫瘍切除+ (予防的頸部郭清術+) 術後照射が行われる場合が多いが, 今後, 必要性のある症例選択基準の検討が求められる.
    副耳下腺腫瘍は耳下腺腫瘍に比べ悪性の比率が高いことから, たとえ術前穿刺吸引細胞診の結果が良性であっても, 常に悪性腫瘍 (特に粘表皮癌や多形腺腫由来癌) の可能性を念頭に置き手術に臨む必要がある.
  • 吉田 友英, 池宮城 芙由子, 池宮城 慶寛, 田中 稔丈, 髙浪 太郎, 田村 裕也, 山本 昌彦, 鈴木 光也
    2013 年 116 巻 12 号 p. 1308-1314
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2014/02/22
    ジャーナル フリー
    私たちは, 動的体平衡機能を定量的に評価する方法である Body Tracking Test (以下, BTT と略す) を用いて, 健常人の追随時の体重心移動のあり方を解析したので報告する. 対象は, めまい・平衡障害の既往がない健常被検者779名で, 平均年齢37.9歳である. 視刺激は, 前後方向定速刺激BTT, 左右方向定速刺激 BTT を用いた. BTT 解析は, 主成分分析法による第一主成分を主軸とした主軸解析にて行った. 主軸方向について, 座標Y軸とX軸の傾きを算出して軸の傾きを評価した. 全年齢の傾き角は, 前後方向 BTT では位置ベクトル・速度ベクトルともに時計方向 (プラス方向) に傾きを示した. 左右方向 BTT では, 位置ベクトル・速度ベクトルともに反時計方向 (マイナス方向) に傾きをもって追随していることがみられた. 年代別にみると, 前後方向 BTT ではゼロ度からの傾き角が有意差をもってプラス方向 (時計方向) を示した. また, 左右方向 BTT では10~30歳代には傾きはみられずX軸に沿った追随を示していた. 追随軸の傾きについては, 重心移動する習慣 (習性) が大きいのではないかと考えられた. 空間知覚には右脳の頭頂葉が主に関与しており, 下肢と体幹の位置関係においては, 身体左側からの体性感覚情報が大きく活用されるものといわれている. 主軸の変位は, 利き足・軸足の関係, そして空間知覚に関与する頭頂葉の働きが関係している可能性があると思われた.
  • 石永 一, 濵口 宣子, 鈴木 洋, 宮村 朋孝, 中村 哲, 大津 和弥, 竹内 万彦
    2013 年 116 巻 12 号 p. 1315-1319
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2014/02/22
    ジャーナル フリー
    術前に頸部リンパ節結核の合併が判明した甲状腺癌頸部リンパ節転移の1例を経験した. 症例は35歳女性で, 甲状腺右葉に8cm大の腫瘤と両側頸部に多発するリンパ節腫大を認めた. 頸部リンパ節結核に対する化学療法を先行させて, 甲状腺全摘術と両側頸部郭清術を施行した. 術後の病理組織検査では甲状腺は乳頭癌, 左頸部リンパ節はリンパ節転移, 右頸部リンパ節からはリンパ節転移と結核性リンパ節炎が混在していることが判明した. 術中・術後は当院感染制御チームと相談し, 感染防止策をとりつつ治療に従事した. 近年結核の院内感染も問題となっており, この点にも十分配慮した治療が求められる.
  • 小林 泰輔, 伊藤 広明, 小森 正博, 兵頭 政光
    2013 年 116 巻 12 号 p. 1320-1325
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2014/02/22
    ジャーナル フリー
    近年, 内視鏡下耳科手術 (EES) が行われるようになったが, 内視鏡下鼻内副鼻腔手術のように広く普及していないのが現状である. 本報告では耳小骨離断に対して EES を行った2症例を呈示する. 症例1は33歳, 男性の左側頭骨縦骨折例である. 平均45.0dBの混合難聴があり, EES を行ったところ, キヌタ・アブミ関節が離断していた. 術後聴力は平均18.3dBに改善した. 症例2は30歳, 男性の右側頭骨縦骨折例である. 平均56.7dBの混合難聴があり, EES でキヌタ骨の変位とアブミ骨前脚骨折を認めたため, 自家キヌタ骨を用いてIV i -Mで連鎖再建を行った. 術後聴力は平均18.3dBに改善した. EES の適応と有用性や課題について考察を加えた.
  • 久場 潔実, 井上 準, 松村 聡子, 南 和彦, 高城 文彦, 盛田 恵, 中平 光彦, 菅澤 正
    2013 年 116 巻 12 号 p. 1326-1331
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2014/02/22
    ジャーナル フリー
    放射線治療後の骨髄炎は放射線晩期合併症として重要であり, 頻度は少ないが椎体に生じた場合は化膿性脊椎炎となり致死的となる. さらに硬膜外膿瘍まで形成した例は, 諸外国をみても非常にまれである. われわれは, 化学放射線療法を行った半年後に潰瘍を伴う下咽頭粘膜壊死から化膿性脊椎炎, 硬膜外膿瘍を発症した症例を経験した. 可動域制限を伴う頸部痛と悪寒を主訴に来院し, 感覚運動障害が出現した段階で可及的に膿瘍ドレナージ, 椎弓切除術を行い改善し得た. 抗菌薬に不応の場合や脊髄圧迫症状がみられる場合には, 早期の観血的治療が重要と考えられた. 照射歴のある患者の可動域制限を伴う頸部痛では, 化膿性脊椎炎, 硬膜外膿瘍の鑑別が必要である.
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