分子イメージングは, 生体内の種々の生理現象や病態を
in vivoで可視化し, 評価する技術であり, ライフサイエンス研究のキーテクノロジーとして, この10年で長足の発展を遂げた. 分子イメージング研究ではさまざまなモダリティが活用されているが, その中で核医学検査は感度が極めて高く, 体深部からの信号も定量的に測定できるといった利点があり, 現時点では臨床に最も近い位置にある. 既にいくつもの検査が疾病診断の有用な手法として実地診療で用いられている. 例えば
18F-FDG PET/CT検査は頭頸部癌を含めたがんの病態評価に有用であり, また放射線治療を行う上で, 照射野決定等に有用な情報を与える. さらに, RECISTでの判定の難しい分子標的薬の早期治療効果判定への応用も期待されている. その他, 放射性Cu標識ATSMによる腫瘍内低酸素イメージングなど, 生体機能を評価する多くの分子イメージングプローブが臨床研究に進んでいる. 分子イメージング技術は新薬開発のツールとしても活用されている. 新薬候補化合物自体を標識することで, 薬物の体内動態を同一個体で経時的に
in vivoで可視化でき, 定量的に評価できる. また, 薬物の標的部位と特異的に作用するプローブを用いて受容体占有率を測定し, 副作用を含めた検討から至適投与用量を決定することも可能であろう. 新薬候補化合物の作用機序に基づいた生体応答をイメージングすることで, 薬効の評価やproof of conceptの取得も試みられている. 光イメージング技術は, 現時点では臨床応用に制限があるものの, プローブの分子設計の工夫と内視鏡や体腔鏡などとの組み合わせにより, 微小癌の検出や癌特異的治療など新しい臨床応用への道が開拓されつつある. さらに, 診断と治療を一体化し, 効果をリアルタイムに観察しながら治療を進める“theranostics”という試みも始まっている.
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