日本耳鼻咽喉科学会会報
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119 巻, 8 号
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総説
  • 久保 寿夫
    2016 年 119 巻 8 号 p. 1097-1104
    発行日: 2016/08/20
    公開日: 2016/09/08
    ジャーナル フリー

     G-CSF 適正使用ガイドライン (2013年版) は, 医師, 看護師, 薬剤師などの医療スタッフが, 化学療法や放射線療法による好中球減少症に対して顆粒球コロニー刺激因子 (granulocyte-colony stimulating factor: G-CSF) を使用する際の参考となり, その適切な使用により患者に生存期間の延長や, 生活の質 (Quality of Life: QOL) の向上がもたらされることを目指して作成された.
     G-CSF は発熱性好中球減少症 (febrile neutropenia: FN) の予防および治療において用いられ, その投与法は「一次予防的投与」, 「二次予防的投与」, 「治療的投与」の3つに大別される. 「一次予防的投与」とは, 抗がん薬治療の1コース目から FN を予防する目的で, 好中球減少や発熱を確認することなく G-CSF を投与することを指す. ガイドラインでは, FN の発症率が20%を超える高リスクのレジメンにおいて一次予防的投与が推奨され (推奨グレード A), FN 発症率が10~20%のレジメンでは, FN 発症または重症化のリスクが高いと考えられる因子を持つ患者においてのみ考慮すべきとしている (推奨グレードB).
     「二次予防的投与」は前コースで FN を生じた場合, 次コースにおいて予防的に G-CSF を投与することを指す. リンパ腫や胚細胞腫瘍など化学療法により「治癒」を含む十分な効果が期待でき, 治療強度を下げない方がいいと考えられる疾患においては, 二次予防的投与を考慮すべき (推奨グレード B) であるが, 緩和的化学療法の場合は次コースの投与量減量もしくはスケジュール変更を検討することが原則である.
     「治療的投与」は好中球減少症を生じた時に G-CSF を投与することであり, 無熱性好中球減少症に対しては, 有効性を示すデータが不十分であり推奨されない. FN 患者における治療的 G-CSF 投与についても, ルーチンに G-CSF の治療的投与を行うのではなく, 高リスクの場合に G-CSF の治療的投与を検討するべきとしている (推奨グレード C1).
     2014年9月にペグフィルグラスチムが承認されたこともあり, G-CSF 適正使用ガイドライン (2013年版 Ver.2) が発表された. 本稿では Ves.2 の内容をもとにペグフィルグラスチム, バイオシミラーについても併せて概説する.

  • 五島 史行
    2016 年 119 巻 8 号 p. 1105-1109
    発行日: 2016/08/20
    公開日: 2016/09/08
    ジャーナル フリー

     うつ病患者は初診の診療科として精神科を受診するよりも耳鼻咽喉科をふくむ身体科を受診することの方が多い. うつ病によってさまざまな身体症状が出現したり, もともと有していた身体症状がより強くなることによって, 身体科である耳鼻咽喉科を受診することは少なくない. われわれ耳鼻咽喉科医としてもある程度うつ病をふくむ, うつの知識を持った上で日常診療にあたることで, これまで説明ができなかった患者の身体症状の要因を明らかにすることができる. 本稿でははじめにうつ病について概説し, 耳鼻咽喉科を受診するうつ病患者の症状の特徴, スクリーニング, 治療法について解説する.
     うつ病は, 気分障害の一種であり, 抑うつ気分, 意欲・興味・精神活動の低下, 焦燥 (しょうそう), 食欲低下, 不眠, 持続する悲しみ・不安などを特徴とした精神障害である. うつ病の診断基準を満たすものを大うつ病としてアメリカ精神神経科学会では定義をしている. 耳鼻咽喉科を受診するうつの患者はうつ状態を主訴として受診するのではなく, あくまで耳鼻咽喉科の身体症状を訴えて受診するため, 耳鼻咽喉科外来でうつを発見するには適切にスクリーニングをする必要がある.
     耳鼻咽喉科でうつを疑うのはめまい, 耳鳴, 咽喉頭異常感を主訴としており, 医学的に症状が十分説明がつかない場合である. その場合には, 問診票 (既往, 書き方) に注意する. さらに質問紙を用いたスクリーニングとして DHI, THI, SDS 等を用いる. 問診では特に睡眠障害, 体重減少, 気分の落ち込みについて問診する. うつを疑った場合には身体疾患がないことを保障し, 企死念慮を確認し, 精神科, 心療内科への紹介を検討する.

原著
  • 平位 知久, 福島 典之, 宮原 伸之, 吉賀 綾子, 有木 雅彦
    2016 年 119 巻 8 号 p. 1110-1116
    発行日: 2016/08/20
    公開日: 2016/09/08
    ジャーナル フリー

     扁摘後に投与する鎮痛薬として, 選択的 COX-2 阻害薬 (セレコキシブ) あるいは従来型 NSAIDs (ロキソプロフェン) を投与し, 鎮痛効果の程度, 術後出血の有無と程度, 副作用等について後方視的に比較検討した結果を報告する.
     対象は, セレコキシブを術後に投与した症例 (以下, 「セレコキシブ群」と略) が55例, ロキソプロフェンを術後に投与した症例 (以下, 「ロキソプロフェン群」と略) が52例, 計107例であった. その結果, 「セレコキシブ群」は「ロキソプロフェン群」よりも鎮痛効果は弱い傾向にあった. 疼痛 VAS 値の変化率, 鎮痛薬を必要とした期間, レスキュー投与率と期間および入院中の総摂食率, 術後出血の有無と程度に両群間で有意差は認めなかった. 術後11日目以降の晩期出血は, 「セレコキシブ群」における術後出血11例では認めなかったのに対し, 「ロキソプロフェン群」における術後出血16例中5例 (31.2%) で認め, 両群間で有意差を認めた. 副作用は「ロキソプロフェン群」の9.8%で上腹部痛を認めたが, 「セレコキシブ群」では認めなかった.
     以上より, セレコキシブは扁摘後の晩期出血のリスクを軽減させ, 副作用が少ないことからも有用な鎮痛薬となり得る. しかし鎮痛効果が十分得られない場合があり, 症例によってはアセトアミノフェン等のレスキューを積極的に投与する必要があると考えた.

  • 藤 さやか, 平井 美紗都, 茂原 暁子, 中井 貴世子, 折田 頼尚
    2016 年 119 巻 8 号 p. 1117-1126
    発行日: 2016/08/20
    公開日: 2016/09/08
    ジャーナル フリー

     2006年から2013年までに鼻出血を主訴とし当科で加療した1,096件 (923人) を対象とした. 男性628件 (57.3%), 女性468件 (42.7%) で, 平均年齢は58.3歳 (1~98歳) であった. 出血部位はキーゼルバッハ567件 (51.7%), 出血なし288件 (26.3%), 出血点不明93件 (8.5%) と続いた. 初診時に行った止血法は, 電気焼灼47.1%, 経過観察24.0%, 局所止血剤20.6%で, 鼻中隔出血に対しては主に電気焼灼を行い, 鼻中隔以外の出血にはガーゼパッキングや局所止血剤が多く用いられていた. 1,096件中, 入院対応とした群は66件 (6.0%) であり, うち再出血あり群19件, なし群47件で, 帰宅対応とした1,030件 (94.0%) のうち, 再出血あり群116件, なし群914件であった. 入院群では, 出血点不明や鼻中隔以外からの出血が多く, 主にガーゼパッキングで止血し, 高血圧や心疾患既往, 抗血小板薬の内服歴, 前医での処置を受けた症例が有意に多かった. 名義ロジスティック回帰分析による初診時点での再出血リスク因子は, 出血点が上鼻道・中鼻道・不明な症例, 高血圧の既往, ガーゼパッキングが有意なリスク因子であった. 中でもガーゼパッキングを行わざるを得なかった症例は電気焼灼よりも約4倍再出血を来しやすく, 出血点を同定しピンポイントで止血処置を行うことが重要と考えられた.

  • 木村 寛, 中川 肇, 浅井 正嗣, 高倉 大匡, 將積 日出夫, 渡辺 行雄
    2016 年 119 巻 8 号 p. 1127-1132
    発行日: 2016/08/20
    公開日: 2016/09/08
    ジャーナル フリー

     1歳2カ月時に頸部外切開で組織診断した副咽頭間隙胎児型横紋筋肉腫の男児症例を報告する. 本症例は喘鳴を主訴とし, 右扁桃周囲の腫脹を示した. CT で右副咽頭間隙に腫瘍を認め, MRI では頭蓋底から右顎下部に及ぶ腫瘍を認めた. IRSG のグループIII, ステージ3に分類された. 腫瘍摘出術, VACAdr + CBDCA 療法と術中照射 20Gy を含む放射線照射 50Gy の集学的治療を行った. 特に術中照射は1回に大線量を頭蓋底に直接照射でき有用であった. 現在, 患児は23歳に成長し横紋筋肉腫の再発や転移はなく, アドリアマイシン心筋症もない. 晩期障害は頸部の色素沈着, 下顎の非対称と歯の発育障害を認めている.

  • 柳 絵里子, 岸 俊行, 松村 孝雄, 谷 欣典, 宮原 信明
    2016 年 119 巻 8 号 p. 1133-1136
    発行日: 2016/08/20
    公開日: 2016/09/08
    ジャーナル フリー

     後天性血友病 A は凝固第Ⅷ因子に対する自己抗体の出現により第Ⅷ因子活性が低下し, 出血症状が発症する疾患である. 発生率は人口100万人当たり1.48人と報告されており, 極めてまれな疾患である. 今回われわれは, 口腔, 咽頭, 喉頭血腫を初発症状とした後天性血友病Aの症例を経験した.
     症例は78歳男性, 口腔内の新鮮血の出血を主訴に当科を受診した. 口腔底, 歯肉, 下咽頭, 喉頭の血腫を認めた. 血液生化学検査にて APTT 延長, 血小板, PT は正常であった. 凝固検査にて第Ⅷ凝固因子の低下, 第Ⅷ凝固抑制因子の検出により, 後天性血友病 A と診断した. ステロイド剤にて治療を行い出血傾向は改善し, 入院29日目には症状は消失した.
     後天性血友病 A はまれな疾患であるが, 突発的に発症した出血傾向の場合, 鑑別診断として考える必要がある.

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