日本耳鼻咽喉科学会会報
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117 巻, 11 号
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総説
  • ―咽喉頭領域の痛み―
    内藤 健晴
    2014 年 117 巻 11 号 p. 1317-1320
    発行日: 2014/11/20
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
     咽喉頭領域の痛み, すなわち咽頭痛は日常の耳鼻咽喉科診療においてよく遭遇する症状である. 通常は, 感冒 (ウイルス感染) を中心とした急性咽喉頭炎によるものがほとんどで, 臨床の場において問題となることはそれほど多くない. しかし, まれながら, 緊急および早々に対応しないと思わぬピットフォールに陥る危険性のある疾患が存在する. 咽頭痛を診察するに当たり緊急度の高い順に3つのポイントを挙げる.
     1) 急激な気道狭窄を来す疾患でないかを見極める.
     2) 悪性疾患がないか入念に検査する.
     3) 慢性的な状況では自己免疫疾患, 心因性疾患など原因が簡単には分からない疾患を丁寧に検
       索する.
     1)では, 急激な気道狭窄が予想される疾患 (急性喉頭蓋炎, 扁桃周囲膿瘍, 咽後膿瘍, 気道熱傷, 咽頭異物など) を見逃さないことである. また, まれに狭心症や心筋梗塞の初期症状として始まることがあるので局所に所見がない場合には, それらを考慮するとよい. 救急科医はこれらを “killer sore throat” と呼んで特別な警戒をしている.
     2)では, 持続する咽頭痛の場合, 悪性腫瘍の初期病変を見逃さないように注意することである. それには単回の検査だけではなく, 時期をずらして複数回の執拗な検査が有用となる.
     3)では, 原因が特定できない場合, 茎状突起過長症, 神経痛や自己免疫疾患などまれな原因を念頭に置いてそれぞれに関連した精査をする. 心因性の場合, 時に精神科医の協力を仰ぐ場面もある.
  • ―眼振の発現機構―
    肥塚 泉
    2014 年 117 巻 11 号 p. 1321-1328
    発行日: 2014/11/20
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
     眼振には衝動性眼振と振子様眼振があるが, 一般的には衝動性眼振を指す. 前庭性眼振の眼振緩徐相は, 末梢前庭器やその伝達路である前庭神経の障害によって生じた前庭動眼反射のアンバランスによって生じた眼球の偏倚である. 偏倚した眼球位置を, 正中眼位にリセットすることを目的に眼振急速相が続いて生じ, このプロセスが繰り返されることにより眼振が形成される. 前庭性眼振の眼振緩徐相は, 前庭系で受容した情報が, 前庭神経, 前庭神経核, 眼運動核 (動眼神経核, 滑車神経核, 外転神経核) に伝達されて形成される (前庭動眼反射). 良性発作性頭位めまい症 (後半規管型) で認められる眼振は, 回旋成分を有した上眼瞼向きの眼振である. またメニエール病や前庭神経炎, めまいを伴った突発性難聴で認められる眼振は, 水平・回旋混合性眼振である. 一方, 純垂直性眼振や純回旋性眼振は末梢性めまいでは認めることは極めてまれである. これらが認められた場合は, 中枢性めまいを疑う. 眼振急速相発現にかかわるニューロン回路は, 眼振緩徐相のそれとは全く異なっている. 眼振急速相発現の主役は, 同側の眼振急速相に一致して一過性の高頻度発射を示す網様体バーストニューロンである. 水平方向急速眼球運動の核上性機構としては, 傍正中部橋網様体 (paramedian pontine reticular formation: PPRF), 垂直方向急速眼球運動の核上性機構としては, 内側縦束吻側間質核 (rostral interstitial nucleus of MLF: riMLF) が重要な役割を果たしている. 眼振緩徐相から眼振急速相への切り替わりに関しては, burster-driving neuron (BDN) が重要な役割を担っている. 注視眼振は, 神経積分器 (neural integrator) に障害があると出現する. 水平方向眼球運動の神経積分器は, 前庭神経内側核, 舌下神経前位核, 小脳片葉などで構成されている. 垂直方向眼球運動の神経積分器は Cajal 間質核, 舌下神経前位核で構成されている.
原著
  • ―満足度, 役立ち度との関連を中心に―
    白井 杏湖, 河野 淳, 西山 信宏, 萩原 晃, 河口 幸江, 齋藤 友介, 富澤 文子, 芥野 由美子, 野波 尚子, 鈴木 衞
    2014 年 117 巻 11 号 p. 1329-1338
    発行日: 2014/11/20
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
     はじめに・目的: 人工内耳装用効果の評価において満足度は重要である. 満足度を向上させる方法を見出すため, アンケート調査を用いて満足度関連の項目を中心に検討した.
     対象・方法: 成人後に人工内耳埋め込み術を施行し5年以上経過した100例を対象に常用しているコミュニケーション手段, 異なる条件下での聴き取り, 不満点, 役立ち度, 不安度, 満足度, 装用時間についてアンケートを行った. 各項目, 聴き取りと役立ち度, 不安度, 満足度の関連性, 人工内耳活用度と各項目の関連性について検討した.
     結果・考察: 条件が良いほど聴き取りは良い傾向にあり, 80%が役立っている, 62%が満足していると評価していた. 不満点は2000年調査1) と比べ一部軽減していた. 聴き取りと役立ち度,満足度は関連しており, 聴き取りが良いほど役立っている, 満足していると評価していた.
     コミュニケーションでの人工内耳活用度と役立ち度は有意に関連していたが, 不安度と満足度とは有意な関連がみられなかった. 役立ち度が直接コミュニケーションの状況を反映するのに比べて, 満足度はコミュニケーション手段以外にも, 心理的要素などほかの因子が関与することを示唆するものと思われる. 患者の術前の聴き取りの現状を把握し, 人工内耳埋め込み術後の経過を個々に予測し, 術前に十分なカウンセリングを施行するなどの配慮が必要と考えられた.
  • ―板橋区における多職種アンケート調査より―
    木村 百合香, 加藤 智史, 長岡 みどり, 大野 慶子, 西山 耕一郎, 岸本 誠司
    2014 年 117 巻 11 号 p. 1339-1348
    発行日: 2014/11/20
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
     超高齢社会の到来により, 嚥下障害を有する患者が急増している. これに呼応し, 胃瘻造設術が2000年代から爆発的に普及した結果, 倫理面, 医療経済面でその是非が問われ, 平成26年度の診療報酬改定では, 胃瘻造設前嚥下機能評価が新設されるなど, 嚥下障害診療の需要が高まっている. そこで, 東京都板橋区内の耳鼻咽喉科医, 病院・在宅診療所の嚥下障害診療担当者, 歯科医を対象とした嚥下障害診療に関するアンケート調査を通じて, 耳鼻咽喉科医の嚥下障害診療への対応に関し考察を行った.
     調査の結果, 耳鼻咽喉科医に期待する役割として, 在宅診療所群と歯科医群は嚥下内視鏡検査による病態評価を, 病院群は外科治療を, 過半数以上の施設が挙げていた. また, 耳鼻咽喉科医との連携がない施設では, 在宅診療所群では64%, 歯科群では47%が連携できる耳鼻咽喉科医の不在を理由に挙げていた. 在宅診療所群からは, 自由意見として短期入院や在宅診療での嚥下機能評価の要望があった. 耳鼻咽喉科群では, 40%の施設で嚥下機能評価を施行しており, 施行していない施設では, 人的資源と設備の不足を挙げている施設が多かった.
     耳鼻咽喉科医は, 誤嚥が生じる場である咽喉頭を専門とし, 局所の器質的疾患の診断から背景疾患の理解, 全身管理までが可能である. 耳鼻咽喉科医の本領域における組織的な参画, 指導的な関与が急務であると考えられた.
  • 天津 久郎, 愛場 庸雅, 中野 友明, 古下 尚美, 木下 彩子, 植村 剛, 金村 信明, 岩井 謙育
    2014 年 117 巻 11 号 p. 1349-1355
    発行日: 2014/11/20
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
     成人の下垂体疾患に対する内視鏡下経鼻経蝶形骨洞手術は近年多くの施設で行われ, 低侵襲で良好な術後成績が報告されている. 一方, 小児の下垂体病変の手術は成人例に比べて経鼻アプローチが困難と考えられ, 開頭術や従来の Hardy 手術が選択されることが多い.
     今回下垂体に発生した病変に対して内視鏡下経鼻経蝶形骨洞生検を行って確定診断を得た5歳のランゲルハンス細胞組織球症症例を経験した. 術後, 神経症状や髄液漏,感染徴候などみられていない. 小児症例であっても, 下垂体病変に対して内視鏡下経鼻経蝶形骨洞法による低侵襲なアプローチが可能であり, 今後の適応拡大が期待される.
  • 間多 祐輔, 植木 雄司, 今野 昭義
    2014 年 117 巻 11 号 p. 1356-1361
    発行日: 2014/11/20
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
     三叉神経鞘腫は比較的まれな腫瘍とされ, その中でも頭蓋外に存在するものはその約10%といわれている. 自験例の頭蓋外三叉神経原発良性神経原性腫瘍4症例 (神経鞘腫3例, 神経線維腫1例) の内訳は年齢が39~75歳, 男性1例, 女性3例であり, 起源神経は三叉神経第II枝が3例, 第III枝が1例であった. 全例外科的に摘出術を行い, そのアプローチ法は経上顎洞法が2例, 経上顎洞法と外鼻切開の併用が1例, 残り1例は副咽頭間隙に拡がる腫瘍であり, 経頸部耳下腺法と下顎骨傍正中離断を併用した. 翼口蓋窩に限局した2例は経上顎洞法に硬性内視鏡, 手術用顕微鏡を併用し, 摘出した. 4例中2例では手術直前に血管塞栓術を施行し, 術中の出血を減らすことができたため, 良好な視野を得られた.
  • 堀 龍介, 庄司 和彦, 浜口 清海, 児嶋 剛, 岡上 雄介, 藤村 真太郎, 奥山 英晃, 小林 徹郎
    2014 年 117 巻 11 号 p. 1362-1366
    発行日: 2014/11/20
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
     耳下腺腫瘍手術では顔面神経本幹から同定する順行性アプローチが一般的であるが, 腫瘍の局在や状況に応じて逆行性アプローチ (逆行性) を選択すればより低侵襲な手術が可能になると考えられる. 当科で施行している逆行性による耳下腺腫瘍手術について, 適応, 手技, 工夫, 成績を報告する. 選択する末梢枝は下顎縁枝か頬骨枝であり, 顔面神経本幹同定の困難が予想される場合は下顎縁枝を選択している. また腫瘍が耳下腺尾部に存在する場合も下顎縁枝を選択し, 耳下腺前縁に存在する場合は頬骨枝を選択している. 35例の検討を行い, 平均手術時間70.7分, 平均出血量33.9gだった. 術後顔面神経麻痺は2例認めたが, 3カ月以内で回復した.
最終講義
  • 中島 格
    2014 年 117 巻 11 号 p. 1367-1375
    発行日: 2014/11/20
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
     喉頭の機能は大きく発声・呼吸・嚥下・下気道保護に分けることができる. この中で, 下気道保護の役割としては, 誤嚥や異物侵入に対して, 反射的に声門を閉鎖する喉頭反射が知られる. 生体の免疫現象は, 液性免疫 (免疫グロブリン) や細胞性免疫が知られるが, 気道や消化管には粘膜で発現する局所免疫が存在する. 局所粘膜免疫の特徴は, 1) 微生物などの外来抗原が体内へ侵入するのを粘膜局所で阻止する, 2) 局所で産生された免疫グロブリン, 主に分泌型 IgA が中心的役割を担っている, 等である. 著者は下気道保護としての「喉頭の粘膜局所免疫」に注目し, 喉頭でも粘膜内で分泌型 IgA が活発に産生され, 特に声帯と仮声帯に挟まれた喉頭室を中心に, 局所免疫が活発に作動することを明らかにした.
     一方, 喉頭癌の最大の危険因子である喫煙の影響を検討する目的で, 摘出喉頭粘膜の線毛上皮から扁平上皮化生への変化を画像解析装置で解析した. 上皮化生の程度は, 刺激に暴露する前庭部, 仮声帯に著しく, 喫煙者ほど上皮化生率が高くなっていた. 本来分泌上皮で覆われる喉頭室粘膜でも, 喫煙者では部分的に上皮化生部分が観察された. 移行部を増殖因子などによって免疫組織学的に観察すると, 粘膜が肥厚した部分では基底部に増殖活性を有する細胞が増え, 細胞配列の乱れ, 異型細胞さらには上皮内がんの発生を予想させた. したがって, 危険度の高さから言えば喉頭癌こそ, 喫煙者に特異的ながんといえる.
     喉頭癌の治療は, 早期がんなら放射線やレーザー, 進行がんでは手術と放射線治療の組み合わせが行われてきた. その結果, 治療成績は頭頸部癌の中でも極めて高く,「喉頭癌は治るがんの代表」と言っても過言ではない. 今後の課題は, 音声機能を保存した治療の確立で, 動注化学療法の導入や, 手術療法の工夫がなされ, 今後さらに発展することが期待されている.
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