日本耳鼻咽喉科学会会報
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122 巻, 10 号
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
総説
  • 田中 真琴
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 10 号 p. 1279-1284
    発行日: 2019/10/20
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル フリー

     味覚障害患者の訴える症状は, 味覚低下・脱失といった量的味覚異常から, 自発性異常味覚や異味症のような質的味覚異常まで多岐にわたる. その原因は多様で, 単一ではなく複合的な場合も多く, 治療で改善がみられないケースもある. また, 味覚定量検査 (電気味覚検査・濾紙ディスク検査) は, 残念ながら限られた施設でしか行われていないのが現状である. これらの理由から, 味覚障害診療は, 耳鼻咽喉科医でも馴染みの薄い分野であると思われる.

     味覚障害は, 60歳以上の高齢者に多い, 生活の質 (QOL) を著しく損なう疾患である. その診療の需要は, 高齢化に伴い今後さらに増加することが予想され, 耳鼻咽喉科の専門性をアピールできる領域と考えている.

     味覚障害診療での, 問診, 視診, 臨床検査, 機能検査, 診断, 治療, フォローアップの概略を述べる.

  • 中川 隆之
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 10 号 p. 1285-1292
    発行日: 2019/10/20
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル フリー

     難聴は, 世界保健機関の報告では人類の克服すべき健康上の課題の上位にランクされており, 近年, 認知症を加速する重要な因子としても注目され, 難聴, 特に感音難聴に対する社会的関心は高まっている. 現在, 感音難聴に対する薬物療法は, 極めて限られており, 新規治療法の開発に対する期待が高まっている. この流れは, 感音難聴に対する創薬研究にも認められ, アカデミア発のベンチャー企業の活発な活動や製薬業界の積極的な取り組みも始まっている. 本稿では, 急速に進展しつつある感音難聴治療薬開発の国内外の現況をまとめ, われわれが行っているインスリン様細胞増殖因子1を用いた急性感音難聴治療研究の進捗状況を概説する. また, 内耳再生医療開発の観点から, 世界的な感音難聴創薬研究, 特に臨床治験の現況について紹介し, 今後の内耳有毛細胞再生による感音難聴治療に向けた研究の展開について考察する.

  • 梅野 博仁
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 10 号 p. 1293-1298
    発行日: 2019/10/20
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル フリー

     声帯自体に直接操作を行う音声外科手術は, 全身麻酔下で顕微鏡下に行う喉頭微細手術が一般的である. 一方, 欧米では経口的手術としてFlex® Robotic System (Raynham, MA) を用いた咽喉頭の手術症例の蓄積が行われているが, 声帯の手術についてはまだ喉頭微細手術による音声外科手術を凌駕する手術機器とは言い難い. 音声外科手術に限った喉頭微細手術の一般的な手術手技は, 1) 良性隆起性病変の切除術, 2) 喉頭狭窄に対する喉頭形成術, 3) 声帯内注入術, 4)レーザーを用いた Transoral Laser Microsurgery (TLM) などが挙げられる. 声帯ポリープの手術は, 温存したポリープ下面粘膜上皮で創部を被覆するか, ポリープの内容物を核出するとよい. ラインケ浮腫 (ポリープ様声帯) の手術は声帯粘膜固有層浅層の貯留物の可及的な除去と創部を被覆できる声帯粘膜上皮の温存に努める. 声帯嚢胞の摘出はマイクロフラップ法で声帯粘膜上皮を挙上し, 嚢胞の剥離操作には綿球とメスが有用である. 喉頭横隔膜症に対する喉頭形成術は, 喉頭横隔膜切除後に声帯癒着防止膜やシリコンチューブがステント留置に用いられている. 直達喉頭鏡下の声帯内注入術は自家脂肪が用いられることが多く, 声帯筋層に注入するとよい.

  • 高野 賢一
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 10 号 p. 1299-1303
    発行日: 2019/10/20
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル フリー

     IgG4 関連疾患の疾患概念が提唱されてから15年以上が経過し, われわれ耳鼻咽喉科の日常診療においても比較的よく遭遇する疾患のひとつとなっている. IgG4 関連疾患の好発部位は, 涙腺・唾液腺と膵・胆管病変であり, 頸部や縦隔リンパ節腫脹を認めることも多く, 耳鼻咽喉科領域では IgG4 関連涙腺・唾液腺炎を診断する機会が多いと思われる. 疫学的にみると, 性差は涙腺・唾液腺炎症例ではおおむね等しいが, 自己免疫性膵炎症例では女性が多い. 年齢は60歳代を中心に比較的高齢者に多くみられる疾患ではある. 乾燥症状がほぼ必発であるシェーグレン症候群と異なり, IgG4 涙腺・唾液腺炎では眼および口腔乾燥症状を訴える患者は多くはなく, 乾燥症状そのものに対する治療を要することは少ない. しかし, 自覚症状に乏しくとも唾液腺分泌機能低下を来している症例は少なくなく, 60%に涙腺分泌機能低下, 68%に唾液腺分泌機能低下が認められる. シルマーテストは 5.42 ± 7.36 (± SD) mm/5分, サクソンテストは 2.57 ± 2.01g/2分と, 機能低下は軽度ではあるものの, ステロイドによる治療後には有意に改善を認める点が特徴的であり, シェーグレン症候群とは異なる点でもある. IgG4 関連涙腺・唾液腺炎は, 腺腫大と血清学的所見,病理組織学的所見によって診断されるが, 確定診断および悪性疾患や類似疾患除外のためにも, 組織生検が望ましい. 生検部位としては腫脹している罹患臓器が原則であり, 大唾液腺から採取するのが推奨される. また, IgG4 関連疾患は全身性疾患であり, 他臓器病変を常に念頭に置く必要がある. IgG4関連涙腺・唾液腺炎における腺外病変の合併頻度は約60%であり, 膵臓 (自己免疫性膵炎) が最も多く, 次いで後腹膜腔 (後腹膜線維症), 腎臓と続く. IgG4 関連涙腺・唾液腺炎を診断した際は, 他臓器病変にも注意を払う必要があり, 経過中に腺外病変が出現することもあるため気を付けたい.

原著
  • 髙尾 なつみ, 千葉 欣大, 佐野 大佑, 折舘 伸彦
    原稿種別: 原著
    2019 年 122 巻 10 号 p. 1304-1313
    発行日: 2019/10/20
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル フリー

     消化器疾患術後の嚥下障害患者において, 初回嚥下内視鏡検査 (以下 VE) の結果から経口摂取の予後予測が可能か検討する.

     2013年1月~2017年9月までに, 当院消化器外科で施行された全身麻酔下手術症例のうち, 術後嚥下機能評価目的に当科に紹介された28症例を対象とした. 初回 VE 時から最長80日後までの経口摂取状況を追跡調査し, 1) 経口摂取の可否, 2) 代替栄養離脱の可否について, 患者背景 (年齢, 性別, 術前の嚥下性肺炎既往の有無, 気管切開の有無, 声帯麻痺の有無, ASA-PS 分類, 手術時間), 初回嚥下内視鏡検査のスコア評価法 (以下兵頭スコア), VE 時の誤嚥の有無との関連を単変量解析 (Fisher 検定) にて検討した. また, Kaplan-Meier 法を用いて, 初回兵頭スコアの高低別 (cut off 値6点) および初回 VE 時の誤嚥の有無別の経口摂取開始率と代替栄養離脱率を検討した. 有意差検定には log-rank 検定を用いた (p < 0.05).

     初回 VE 時から最長80日後までの経過観察において, 経口摂取可能例26例, 不能例2例, 代替栄養離脱例19例, 依存例9例であった. 初回兵頭スコア ≦ 6点群19例, 兵頭スコア > 6点群9例, 初回VE時に誤嚥あり10例, 誤嚥なし18例であった. 経口摂取・代替栄養離脱の可否別の単変量解析において, 患者背景因子, 初回兵頭スコア, VE 時の誤嚥の有無について有意差を認めなかった. しかし, 兵頭スコア高値群は兵頭スコア低値群と比較し, 経口摂取開始や代替栄養離脱までに有意に長い日数を要した. また VE 時の誤嚥の有無別においても, 経口摂取開始までに有意差は認めなかったが, 代替栄養離脱までに有意に長い日数を要した.

     消化器疾患術後の嚥下機能評価として初回 VE 時の兵頭スコアおよび誤嚥の有無は, 最終的な経口摂取可否の予測因子にはならないが, 代替栄養離脱までの期間を予測する因子であることが示された.

  • 平位 知久, 福島 典之, 呉 奎真, 平木 章弘, 佐藤 祐毅, 益田 慎
    原稿種別: 原著
    2019 年 122 巻 10 号 p. 1314-1321
    発行日: 2019/10/20
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル フリー

     Premaxillary wing は, 発生学的には前上顎骨由来の鼻稜であり, 鼻中隔を構成する硬性組織の最前方かつ下方に位置する. 鼻中隔前弯を伴う症例では premaxillary wing の形状変化を伴うことが多い. そのような症例では, 鼻中隔尾側端で余剰軟骨を処理するだけでなく, premaxillary wing を削除することも重要な手技の一つであると考える.

     今回, 副鼻腔 CT を施行した323例のデータを解析し, 鼻中隔前弯と premaxillary wing の形状変化との関連について検討した. なお, premaxillary wing の形状については,「垂直型」,「傾斜型」,「棘状型」の3型に分類した.

     その結果, 前弯高度であるほど premaxillary wing 形状変化 (特に「傾斜型」) を来している症例の割合は増加していた. また, 中等度以上の前弯症例の約1/4の割合で「棘状型」を認めた.

     Premaxillary wing が形状変化を来す主な要因 (外傷性を除く) として, 思春期にかけて成長する鼻中隔軟骨からの過剰な負荷を受けることが考えられた.

  • 永野 広海, 宮本 佑美, 地村 友宏, 井内 寛之, 馬越 瑞夫, 牧瀬 高穂, 川畠 雅樹, 宮下 圭一, 大堀 純一郎, 宮之原 郁代 ...
    原稿種別: 原著
    2019 年 122 巻 10 号 p. 1322-1328
    発行日: 2019/09/20
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル フリー

     再発性多発軟骨炎 (relapsing polychondritis: 以下 RP) は, 軟骨の慢性炎症を主徴とするまれな疾患であり病因は自己免疫応答と考えられている. 本疾患は気道狭窄や心病変など, 診断が遅れると致死的病変の合併もあり得るため早期診断が重要である. 2011年4月~2018年3月までに受診した RP 9例の臨床像を検討した. 症例は, 男性4例, 女性5例, 初診時の年齢は33~84歳で, 症状の出現から診断までに約2カ月~2年を要した. 観察期間は, 約3カ月~7年である. 治療前の臨床所見は, 耳介軟骨炎6例, 多発関節炎3例, 鼻軟骨炎4例, 眼の炎症2例, 喉頭・気管軟骨炎6例, 蝸牛あるいは前庭機能障害2例を認めた. 併存する膠原病として, 腸管ベーチェット病, 関節リウマチ, 原田病を1例ずつ認めた. 診断に際して必ずしも生検は必要ないが, 臨床症状のみで診断基準を満たさない場合には, 病理組織検査が一助となる. しかし基礎疾患に対してステロイドを用いている症例では, 病理検査結果や症状が修飾されている可能性があり注意が必要である. 初回治療は, 耳介病変が主である場合には, 外来での少量ステロイド療法を施行した. しかし気道病変を伴った症例では, ほかの診療科を紹介しステロイド中・大量療法を施行した症例が多かった. 予後は, 8例は生存しているが, 1例は他疾患で死亡された.

  • 大塚 雄一郎, 井上 祐三朗, 大和田 千桂子, 太田 聡, 久満 美奈子, 嶋田 耿子, 原 加奈子, 花澤 豊行, 岡本 美孝
    2019 年 122 巻 10 号 p. 1329-1338
    発行日: 2019/10/20
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル フリー

     活性化 PI3Kδ 症候群 (APDS) は原発性免疫不全症の一つで, 呼吸器感染, 気管支拡張症, リンパ球減少, Epstein-Barr ウイルス (EBV) を含むヘルペスウイルス属感染, 中耳炎, 副鼻腔炎, リンパ増殖性疾患, 悪性リンパ腫を発症する. 症例は女性で, 1歳で EBV に感染し, 発熱, 発疹, 関節痛, 胃腸炎, 中耳炎, 咽喉頭炎を反復, 中下咽頭のリンパ組織増殖のため37歳で口蓋・舌扁桃切除と気管切開を施行した. 血清 EA-IgG 高値と扁桃に EBV 陽性細胞を認め EBV 関連リンパ増殖性疾患と診断, 38歳で悪性リンパ腫を発症した. 化学療法は無効で臍帯血移植後に DIC を併発し永眠された. 遺伝子解析で APDS と診断された.

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